「あんたのヘソ可愛いね」ブルー・マインド KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
あんたのヘソ可愛いね
脚と脇腹がムズムズする…上映中から身体的なゾワゾワが止まらない映画だった。
転校生先の居心地の悪さ、スクールカーストトップのグループに引っ付いて何とか釣り合おうとする痛々しさ、疎外感、惨めさ、親との折り合いの悪さ。色々なものがチクチクと容赦なく刺さってくる。
性と人間関係と家庭に悩む思春期の女の子を描いた作品としてよくある感じだけど、そこに身体が変態していく恐怖を取り入れて、アクセントとパンチの入った面白い作品。
段々足の指がくっ付き、脚全体が黒く爛れて炎症を起こし、遂には脇腹にエラが出現。生の魚に対する異常な食欲。
描写は多くないけど、チラ見せされるだけでなかなかのインパクト。
主人公にモロに自分に置き換えて観ていたので、実際にそうなったら…と思うと絶望しかない身体の変化に終始ゾワゾワしていた。
異質なものをガツガツ食べる描写は大好き。えげつない身体の変化に苦しむ様子は観ているだけで苦しくて好き。
途中まで魚になるのかな?と思っていたところ、最後は立派な人魚に大変身。
前夜に脚と脚がくっ付いた場面から気持ちが一気に高まり、翌朝の完全に変態し終えた彼女の姿には興奮とため息が出た。
そして海へ入っていく最後、ジアンナと築いていた友情や切っても切れない母親への愛がそれこそ泡のように浮かんでくるのが切なくて堪らない。
ジアンナとミアはお互いに無いものを持っていて、少し惹かれ合っていたように思う。
この映画で思い出したのが私の大好きな「RAW 少女のめざめ」なんだけど、それでいう主人公の姉のような立ち位置というか。
あの二人は血縁という絶対的なもので結ばれた特殊な愛情が感じられるけど、本作の二人はやや不安定な感情の揺れを感じた。
関係ないけどジアンナが美人すぎて映るたびに見惚れていた。あとみんな脚が長い。
余白はかなり多い。
ミアが転校する前のことやバックボーンはほとんど語られず、たまに薄っすら匂わす程度。
もう少し分かりやすくしても良いのでは、と思いつつあれこれ自分なりに考察するのもまた良し。
ミアは自分が人魚であることを完全にとは言わないまでも、薄々知っていたんじゃないかと思う。
病気ではないことは暗に分かっていたから、病院の検査も抜け出し明らかに重症になっていても病院に行くことはなかった。
もうすぐ人魚に戻ってしまうから、そうなる前に友達と楽しみたかったし異性と関係したかった。弾けたかったのではないかと。
両親の子ではないことも、「顔が似てないから」以外の核心的な理由を察知していたのでは。
そうなるとどういう経緯であの家族になったのか、そもそもどう生まれてきたのか…という疑問は残るけど。
人魚として海に生まれて、試練なのか褒美なのか分からないけど人間界にやってきたとか。
幼い姿で海辺に倒れていたところを今の両親に拾われたとか。
なんだかかぐや姫みたいになってしまった。
まあ設定についてはあまり重要ではないのかもしれない。でも考えるのが楽しい映画って好きだな。
もう完全に少女から大人の女性へ変わる時の恐れや不安のメタファーなんだけど、オヤジ目線特有の若い女を神聖化する気色悪さが無かったのが良かった。
女性監督ならではの性や身体に対する並々ならぬ憎しみと愛情を感じる、気持ち悪くて気持ちいい映画だった。
ややテンポは遅めで中弛みもあるけれど、ちょくちょく挟まれるショッキングなカットで持ち直し、終盤の展開でかなり上がったのでオールオッケー。好きだな。
一週間限定でしか上映しないなんてもったいない。