記憶にございません!のレビュー・感想・評価
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政治ファンタジー
試写会で安倍首相を招いたのち、三谷幸喜監督自身から「ファンタジーのつもりで楽しめますから」との言葉が出た。(産経新聞。下部のURL)
最初、何を言っているのかと思った。現代日本を舞台に、政治をテーマにして、夢物語にしてしまう空虚さはダメではないか、と。
ただ観てみるとファンタジーというのは本作の展開設定のことであって、現実の安倍政治と無関係でないことがわかった。中井貴一演じる黒田総理は消費増税や社会保障の抑制、巨大建造物の不正発注など既得権益の有利に尽くし、国民の生活を苦しめる政治家であったことが伺える。全てとは言わないが現職総理大臣にも当てはまるところはあるのではないか。
この安倍首相にもダブる総理大臣が記憶を失ってしまう。この設定が素晴らしい。総理の記憶喪失を隠し通さなければいけないシチュエーションから生まれる緊張感と笑い。そこで記憶を失い純粋となった黒田の目を通して浮かび上がる政治の腐敗こそ、この喜劇のミソである。
そんな毅然とした前半から、後半は三谷監督が語るファンタジーへと変貌する。自らの役割に目覚め、理想の政治へと突き進んでいく。退屈とは言わないが、前半の輝きは減退している。
後半の問題点は草刈正雄が後手後手のへっぽこ悪役だったこと。現実の政治への批評性を大きく失ったことだと思う。後者を解決するためにはもっと記憶喪失前の黒田首相を描いておく必要があったと思う。現実の政治のメタファーでもある過去の黒田総理と、正反対である現在の黒田総理。過去と今のキャラクターの違いを同じシーン(それでも2人の行いは全然違う)の反復としてしっかり画として見せるべきである。そして、過去の黒田の分身でもある草刈正雄を打ち倒すことによって映画的なカタルシスがより増大するのではないか。
ただ前作『ギャラクシー街道』のような駄作では決してない。面白い映画だと思う。
最後に3つ。SPとして登用された田中圭には見せ場として、スナイパーの狙撃から身を呈して中井貴一を守って欲しかった。セクハラされ続けた小池栄子に対し何事もなかったかの様に話が進むなど、蔑視的な作りも気になる。頭で書いた三谷幸喜監督と安倍晋三首相の会談について。是枝裕和監督の様に権力と距離を置いて欲しかった。それが権力を茶化し、相対化する喜劇人としての立ち位置ではないだろうか。少なくとも、映画で語った「権力者のご機嫌を伺うのではなく、はっきり正しいことを言う」というメッセージには嘘をつかないで欲しい。
https://www.google.co.jp/amp/s/www.sankei.com/entertainments/amp/190811/ent1908110007-a.html
https://www.toho.co.jp/movie/news/1908/01_kiokunashi-movie_ib.html
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