37セカンズのレビュー・感想・評価
全169件中、41~60件目を表示
普通とはなにか。障害こそ大きな1つの経験
仮に人生100年だとすると、36,500日…876,000時間…52,560,000分…3,153,600,000秒。こう見ると長くてもそんなものかと感じる。そのうち、たった37秒の違いだけで人生が変わってしまう。それは残酷なようで、生ものであるから当然のことでもある。
本作の主人公は「障害」というものを持ってしまったが、どちらが幸せかは分からない。「持ってしまった」という表現も適切ではないだろう。人生は多元的で選択の連続で、結果論でしか測れないから。そしてそれも人それぞれの価値観次第。
障害者の役を健常者が演じても意味がないという監督の意向で、一般公募により約100人のなかから選ばれた演技未経験者が主演を務める。そのためとてもリアリティがあり独特の世界観をつくり出している。身体を張った演技も素晴らしい。
しかし決してドキュメンタリーになるというわけではなく、しっかりとしたフィクションの物語として仕上がっていることがこの映画が評価される1つの理由だろう。
おしゃれな照明とカメラワークに、アニメと音楽でポップに演出することにより、重たくなりそうな「障害」というテーマも親近感を持って自分ごととして観ることができる。
セックス経験がない漫画家がアダルト漫画を描けないように、何事も人生経験が糧となり、「障害」とはそのなかでも大きな経験のひとつだと言える。だからこそ見られる世界も、できることもある。
普通とはなにか。それぞれに良い部分も悪い部分も、善と悪も持っているのがリアルな人間だし、その生々しさが多様性であり、人生を豊かにするはず。
これは社会問題として捉えるのではなく、か弱くも強いひとりの女性の葛藤と成長の物語として観てほしい。きっと背中を押してくれるだろう。
娘も母も
「障がい者と性」から「普遍的な自己同一性の獲得」へ
タイトルになっている37秒は、出生時に37秒間呼吸が止まっていたことにより、脳性麻痺という病気、障がいをもつことになったところか、つけられたタイトルという前情報だけで視聴しました。一見の価値ある作品になっていると思います。
始まってすぐに気付く、主人公とおぼしき登場人物の声のか細さと背中の曲がり方。実際に脳性麻痺をもつ方をオーディションで選んだということですが、素晴らしい演技でした。脚本を初めて見たときにどういう印象を抱いたのか、インタビューなどを追ってみたくなりました。
主人公の車椅子から見える視点に合わせて、カメラも全般的に下から撮っている演出が良かったです。彼女が見えている世界を追体験できるような作りになっていました。
さて、始まって数分で、母親がいないといわゆる当たり前の生活を当たり前に送ることが難しいということが示されていました。お風呂に入るシーンは普段触れたことがない世界だからこそ本当に衝撃的でした。四つん這いになって服や下着を脱がせていき、抱き抱えるような介助を受けながら入浴へと移るシーンで、背筋がピンと伸びるというか『障がいを利用したお涙ちょうだいもの』とは一線を画するものだと観る側に印象付けます。
ただ、その後のシーンを観ていると母親のが過保護的で、ゴーストライターとして活躍している描写などから、主人公が自立を願っているということがわかってきます。全て思うようにいかなくとも、自分でできること、自分で選べること、自分が承認欲求を満たせることについてのしがらみというか偏見というか不自由と向き合っているんだなということがわかってきます。
そこからいわゆる「夜の街」に行く流れとなっていくのですが、そこでは結構すんなり受け入れられてるんですよね(性行為の失敗はあれど)。コロナ禍でいろいろと言われている夜の街ですが、実はこういう人間味というか温かさはこういうところの方があるのかなと現実とリンクさせながら見れました。
後半からは、そこからパーソナリティーというかアイデンティティー(自己同一性)を獲得していくために、自らが進んで行動をしていきます。この展開については賛否両論あるんだろうと思います。綺麗事と見えても致し方ない、ましてや当事者をキャスティングして当事者にセリフを言わせているわけですから、その重みはややノンフィクション的になるからこその難しさ。『もし1秒でも早く息を始めていたら…』『私で良かった…』というセリフを主人公目線で観ていたら、素直に感動できると思うのですが、自分は途中から母親目線や別の血縁者目線(ネタバレになるので少し遠回しにします)で観てしまったので、全てに頷けるというわけではありませんでした。でも、『私で良かった…』というのが諦観ではなく、前向きに捉えられるプロセスを丁寧に描いているのには好感を持ちました。決してこの物語は、障がいをもつ人たちだけじゃなく、自分が自己同一性を獲得していく普遍的なお話へと昇華させていっているのはお見事だと思います。
ゴーストライターをしていたビジネス相手と最後どうなっていくのかは語られませんでしたが、全般的に主人公以外は成長しているわけではないように見えたのが残念。結局1番変わっていくのは当事者なのかなと思ったりして。ただ、最後の母親の抱き締め方がそれまでと少し違っているあたり、母親はこれからどう関わっていくんだろうと考えさせられました。
今作で1番許せなかったのは「性経験がないと良い性的漫画は書けない」という思考が至極当然のように編集者の間にまかり通っていると分かったところです。現実はそうでなければ良いですけど。
重ねてにはなるけど、観る価値のある一本だなと思いました。
障害も個性
母親は障害を持ってる娘が心配で、あれこれし過ぎてしまっている。
ホントに37秒酸素がいかなかったら脳に障害が起きるものなのかが気になるが、そこはいいとして、漫画を書くのが好きと言う特技があり、それは障害は関係なかった。
障害者が故か、友達に騙されてたり、アダルトコミックの編集者にセックス経験ないといい作品描けないと言われ抱いてもらおうとしてお漏らししたり、佳山明の自然な演技が素晴らしかった。
ユマの双子ユカ役の芋生悠が爽やかで気になった。
障害を持った主人公だけど、それはひとつの個性でしかないという姿勢の...
正直きつかった
抱擁
終盤、片割れが登場する展開に、この構図には弱い。主人公にとっての「たられば」との邂逅。主人公の人生をミラーに投影して客観し、「でも私でよかった」と自己肯定に着地する。自分にしか与えられなかった人生を認知する純真さ。美しい瞬間。
観てる健常者にとっては彼女こそミラーに映りこむ自分自身かも知れぬ。自分が恐れる「たられば」。姉の言う怖かった気持ちは口にしづらいもの。手を取り抱擁する。これも美しい瞬間。
中盤まで子離れ・親離れの話として捉えていたので、終盤の展開は不意打ちだった。主人公は「自分がこうでなければ、母もああならなかったかも知れない」と語る。ミラーを通して、子と母が語らい、最後はやはり手を取り抱擁する。もはや涙でよく見えぬ美しい瞬間。
見事な構成だと思う。主人公のか細い声が終始説得力を持つ。真起子姐、かっこいい。
輸出したい日本映画
冒頭のセリフ「普通と変わらないですよ」 生まれつき障害をもった23...
佳山明さんに主演女優賞をあげたい!
この映画は何といっても佳山明さんの体当たり演技に脱帽。
健常者の役者さんが演じるのではなく、脳性麻痺を抱えている女性が演じたからこそ多くのものが伝わってきて感じ取れたと思う。
その周りを固める渡辺真起子、板谷由夏、神野三鈴といった役者さんも素晴らしかった。
「こんな夜更けにバナナかよ」しかり、最近の障害を抱えた人を主役とする映画は、一昔前のお涙頂戴映画ではなく、自分の人生をより良いものにしていくのに障害がある無しなんて関係ない、自分が置かれた状況を嘆き憐れむのではなく、受け入れ、前向きに一生懸命努力して楽しんで笑って生きよう!という強いメッセージ性を感じる。
ユマがリハビリ施設を抜け出すシーンでは「いいぞいいぞー!行けー!!」と応援せずにはいられず、タイで双子の姉を見つけ出し、赦すシーンから母と再会するシーンあたりまでは涙が止まらず、最後に編集者に原稿を渡して、編集者が知り合いに電話で勧めるシーンではガッツポーズしたかった。
いやぁ、元気をもらった!良い映画を観た。私ももっと笑顔で前向きに頑張ろう!
これは純粋に1人の女の子の成長物語
これは「かわいそうな障害者に親切な人が手を差しのべてよかったね」映画ではない
出生のとき、呼吸をしていない時間が37秒あったために、生まれつき脳性マヒの障害を持っているユマ。
終盤、彼女はこう呟く。
「1秒でも短かったら、自由に生きられたのかな」
僕には彼女のような障害もない。だから、こうした障害を持つ不自由さについて、何にも分からない。
その前提で。
それでも障害を持つ不自由さには、「障害者はこうだろう」とか「こうあるべき」といった社会の持つ偏見や先入観の部分が多いことに気付かされた。
ユマと母親の会話。
「1人じゃ何も出来ないくせに」
「ママが何もやらせてくれないんじゃない!子供扱いしないで!」
ユマが、それまで知らなかったことに興味を持っていく過程を観ると、彼女の持つ自由を求める心の素晴らしさに打たれる。
そして気付く。
自由な心を持てるかどうかって、障害の有無はさほど関係はないよな。
だから、ユマの母親が、娘の障害を気遣うあまり、母親として自分自身にも不自由を課していたことに気付き、向き合う場面に深く心が動くのだ。
後半は意外にもロードムービーの味わい。
母と子の物語に、父と子の物語が加わり、やがてユマの家族の物語へと重層的にストーリーの奥行きが加わる脚本は見事。
絵ハガキの伏線が効いているし、ユマの絵の才能が父譲りのものだと思うと、娘に会えなかった父の無念が一層伝わってくる。
ユマの周囲で、彼女を支える“人生の先輩たち”がほんとうに素敵。
これは“映画のご都合主義”ではなくて、「世の中捨てたものじゃないよね?」という作り手のメッセージだと思う。
(本作が「かわいそうな障害者に親切な人が手を差しのべてよかったね」作品になっていないことに注意されたい。筋立てとしては、そうなってもおかしくないのに、そうならないのが本作の凄いところである)
作り手が人生を強く肯定しているからこそ、本作は、障害という特殊な背景を持ちながら、誰の胸にも届く普遍性があるし、僕たちに生きる元気を与えてくれるのだろう。
主演はもちろん、役者たちの演技も素晴らしい。
傑作である。
これは実話?!
素直に凄い作品
脳性麻痺の少女ユマを演じた佳山明の発する一語一句に震えた。事前情報なくこのリアリティのある演技ができる女優は誰なんだろう。観賞後ホームページなどで確認するとオーデションで選ばれた、実際に脊椎損傷で車椅子生活されている一般女性とのことでした。彼女のか細い声がまたせつない。母親役の神野美鈴の芝居も光りました。この女優さん正直知りませんでしたが素晴らしかった。ここまで母性を曝け出す芝居なかなかできません。
障害者にスポットライトを当てた作品は多いですが、37セカンドほどリアリティかつエモーショナルな作品はないです。ドキュメンタリーをみているようでした。障害者の実際の残酷なテリトリー。そこから少しでも違う世界に脱出しもがき苦しむユマ。それを支えたり、応援したり、現実を突きつけたり全てのキャストが素晴らしい。こんな映画つくったHIKARI監督って何者?素直にやられました。必見です。
京成ローザ、よくぞ上映してくれました。
全169件中、41~60件目を表示