37セカンズのレビュー・感想・評価
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「障がい者と性」から「普遍的な自己同一性の獲得」へ
タイトルになっている37秒は、出生時に37秒間呼吸が止まっていたことにより、脳性麻痺という病気、障がいをもつことになったところか、つけられたタイトルという前情報だけで視聴しました。一見の価値ある作品になっていると思います。
始まってすぐに気付く、主人公とおぼしき登場人物の声のか細さと背中の曲がり方。実際に脳性麻痺をもつ方をオーディションで選んだということですが、素晴らしい演技でした。脚本を初めて見たときにどういう印象を抱いたのか、インタビューなどを追ってみたくなりました。
主人公の車椅子から見える視点に合わせて、カメラも全般的に下から撮っている演出が良かったです。彼女が見えている世界を追体験できるような作りになっていました。
さて、始まって数分で、母親がいないといわゆる当たり前の生活を当たり前に送ることが難しいということが示されていました。お風呂に入るシーンは普段触れたことがない世界だからこそ本当に衝撃的でした。四つん這いになって服や下着を脱がせていき、抱き抱えるような介助を受けながら入浴へと移るシーンで、背筋がピンと伸びるというか『障がいを利用したお涙ちょうだいもの』とは一線を画するものだと観る側に印象付けます。
ただ、その後のシーンを観ていると母親のが過保護的で、ゴーストライターとして活躍している描写などから、主人公が自立を願っているということがわかってきます。全て思うようにいかなくとも、自分でできること、自分で選べること、自分が承認欲求を満たせることについてのしがらみというか偏見というか不自由と向き合っているんだなということがわかってきます。
そこからいわゆる「夜の街」に行く流れとなっていくのですが、そこでは結構すんなり受け入れられてるんですよね(性行為の失敗はあれど)。コロナ禍でいろいろと言われている夜の街ですが、実はこういう人間味というか温かさはこういうところの方があるのかなと現実とリンクさせながら見れました。
後半からは、そこからパーソナリティーというかアイデンティティー(自己同一性)を獲得していくために、自らが進んで行動をしていきます。この展開については賛否両論あるんだろうと思います。綺麗事と見えても致し方ない、ましてや当事者をキャスティングして当事者にセリフを言わせているわけですから、その重みはややノンフィクション的になるからこその難しさ。『もし1秒でも早く息を始めていたら…』『私で良かった…』というセリフを主人公目線で観ていたら、素直に感動できると思うのですが、自分は途中から母親目線や別の血縁者目線(ネタバレになるので少し遠回しにします)で観てしまったので、全てに頷けるというわけではありませんでした。でも、『私で良かった…』というのが諦観ではなく、前向きに捉えられるプロセスを丁寧に描いているのには好感を持ちました。決してこの物語は、障がいをもつ人たちだけじゃなく、自分が自己同一性を獲得していく普遍的なお話へと昇華させていっているのはお見事だと思います。
ゴーストライターをしていたビジネス相手と最後どうなっていくのかは語られませんでしたが、全般的に主人公以外は成長しているわけではないように見えたのが残念。結局1番変わっていくのは当事者なのかなと思ったりして。ただ、最後の母親の抱き締め方がそれまでと少し違っているあたり、母親はこれからどう関わっていくんだろうと考えさせられました。
今作で1番許せなかったのは「性経験がないと良い性的漫画は書けない」という思考が至極当然のように編集者の間にまかり通っていると分かったところです。現実はそうでなければ良いですけど。
重ねてにはなるけど、観る価値のある一本だなと思いました。
障害も個性
母親は障害を持ってる娘が心配で、あれこれし過ぎてしまっている。
ホントに37秒酸素がいかなかったら脳に障害が起きるものなのかが気になるが、そこはいいとして、漫画を書くのが好きと言う特技があり、それは障害は関係なかった。
障害者が故か、友達に騙されてたり、アダルトコミックの編集者にセックス経験ないといい作品描けないと言われ抱いてもらおうとしてお漏らししたり、佳山明の自然な演技が素晴らしかった。
ユマの双子ユカ役の芋生悠が爽やかで気になった。
障害を持った主人公だけど、それはひとつの個性でしかないという姿勢の...
正直きつかった
抱擁
終盤、片割れが登場する展開に、この構図には弱い。主人公にとっての「たられば」との邂逅。主人公の人生をミラーに投影して客観し、「でも私でよかった」と自己肯定に着地する。自分にしか与えられなかった人生を認知する純真さ。美しい瞬間。
観てる健常者にとっては彼女こそミラーに映りこむ自分自身かも知れぬ。自分が恐れる「たられば」。姉の言う怖かった気持ちは口にしづらいもの。手を取り抱擁する。これも美しい瞬間。
中盤まで子離れ・親離れの話として捉えていたので、終盤の展開は不意打ちだった。主人公は「自分がこうでなければ、母もああならなかったかも知れない」と語る。ミラーを通して、子と母が語らい、最後はやはり手を取り抱擁する。もはや涙でよく見えぬ美しい瞬間。
見事な構成だと思う。主人公のか細い声が終始説得力を持つ。真起子姐、かっこいい。
輸出したい日本映画
冒頭のセリフ「普通と変わらないですよ」 生まれつき障害をもった23...
佳山明さんに主演女優賞をあげたい!
この映画は何といっても佳山明さんの体当たり演技に脱帽。
健常者の役者さんが演じるのではなく、脳性麻痺を抱えている女性が演じたからこそ多くのものが伝わってきて感じ取れたと思う。
その周りを固める渡辺真起子、板谷由夏、神野三鈴といった役者さんも素晴らしかった。
「こんな夜更けにバナナかよ」しかり、最近の障害を抱えた人を主役とする映画は、一昔前のお涙頂戴映画ではなく、自分の人生をより良いものにしていくのに障害がある無しなんて関係ない、自分が置かれた状況を嘆き憐れむのではなく、受け入れ、前向きに一生懸命努力して楽しんで笑って生きよう!という強いメッセージ性を感じる。
ユマがリハビリ施設を抜け出すシーンでは「いいぞいいぞー!行けー!!」と応援せずにはいられず、タイで双子の姉を見つけ出し、赦すシーンから母と再会するシーンあたりまでは涙が止まらず、最後に編集者に原稿を渡して、編集者が知り合いに電話で勧めるシーンではガッツポーズしたかった。
いやぁ、元気をもらった!良い映画を観た。私ももっと笑顔で前向きに頑張ろう!
これは純粋に1人の女の子の成長物語
これは「かわいそうな障害者に親切な人が手を差しのべてよかったね」映画ではない
出生のとき、呼吸をしていない時間が37秒あったために、生まれつき脳性マヒの障害を持っているユマ。
終盤、彼女はこう呟く。
「1秒でも短かったら、自由に生きられたのかな」
僕には彼女のような障害もない。だから、こうした障害を持つ不自由さについて、何にも分からない。
その前提で。
それでも障害を持つ不自由さには、「障害者はこうだろう」とか「こうあるべき」といった社会の持つ偏見や先入観の部分が多いことに気付かされた。
ユマと母親の会話。
「1人じゃ何も出来ないくせに」
「ママが何もやらせてくれないんじゃない!子供扱いしないで!」
ユマが、それまで知らなかったことに興味を持っていく過程を観ると、彼女の持つ自由を求める心の素晴らしさに打たれる。
そして気付く。
自由な心を持てるかどうかって、障害の有無はさほど関係はないよな。
だから、ユマの母親が、娘の障害を気遣うあまり、母親として自分自身にも不自由を課していたことに気付き、向き合う場面に深く心が動くのだ。
後半は意外にもロードムービーの味わい。
母と子の物語に、父と子の物語が加わり、やがてユマの家族の物語へと重層的にストーリーの奥行きが加わる脚本は見事。
絵ハガキの伏線が効いているし、ユマの絵の才能が父譲りのものだと思うと、娘に会えなかった父の無念が一層伝わってくる。
ユマの周囲で、彼女を支える“人生の先輩たち”がほんとうに素敵。
これは“映画のご都合主義”ではなくて、「世の中捨てたものじゃないよね?」という作り手のメッセージだと思う。
(本作が「かわいそうな障害者に親切な人が手を差しのべてよかったね」作品になっていないことに注意されたい。筋立てとしては、そうなってもおかしくないのに、そうならないのが本作の凄いところである)
作り手が人生を強く肯定しているからこそ、本作は、障害という特殊な背景を持ちながら、誰の胸にも届く普遍性があるし、僕たちに生きる元気を与えてくれるのだろう。
主演はもちろん、役者たちの演技も素晴らしい。
傑作である。
これは実話?!
素直に凄い作品
脳性麻痺の少女ユマを演じた佳山明の発する一語一句に震えた。事前情報なくこのリアリティのある演技ができる女優は誰なんだろう。観賞後ホームページなどで確認するとオーデションで選ばれた、実際に脊椎損傷で車椅子生活されている一般女性とのことでした。彼女のか細い声がまたせつない。母親役の神野美鈴の芝居も光りました。この女優さん正直知りませんでしたが素晴らしかった。ここまで母性を曝け出す芝居なかなかできません。
障害者にスポットライトを当てた作品は多いですが、37セカンドほどリアリティかつエモーショナルな作品はないです。ドキュメンタリーをみているようでした。障害者の実際の残酷なテリトリー。そこから少しでも違う世界に脱出しもがき苦しむユマ。それを支えたり、応援したり、現実を突きつけたり全てのキャストが素晴らしい。こんな映画つくったHIKARI監督って何者?素直にやられました。必見です。
京成ローザ、よくぞ上映してくれました。
絶望から救ってくれる人がいる幸せ
ちょっと待って!単館系、自分探しの旅赤裸々の巻かと思いきや。途中から完全にぶっ飛ばして"Long way to home -愛こそが全て-家族篇"にトランスフォーム。
タイだよ、スワンナプームのNo.5じゃん、ソンテウやがな、自己申告レスキューのステッカーやん、ゲストハウスですよ、懐かしいなぁ、サワディカーップ!なんて懐かしがってる場合じゃ無い。芋生悠ちゃん?また君が泣かせ役か?あれ、泣かさんのか?そのまま帰してエエんか?なーんてね。やられますただ。メタクソに涙搾り取られました。
どないなってんのや?と言う事で皆さんのレビューを見たところ、そう言う作品だったんだと納得して、また思い出しながら涙目になっとります。
37秒の運命を恨む事なく。絶望感でやるせ無い夜に取り出したのは、子供の頃に受け取った父さんからの手紙。何がしたいのか、どう生きたいのかも分からないけど、今のままでは自分の人生を生きていると言う実感が無い。
俊哉に連れられて訪れた父の住所で、彼の死と双子の姉の存在を知ったユマは、ただ単に会いたくてタイに飛びます。結果的に、純粋な慕情しか抱いていなかった彼女の旅は、離れ離れになった家族を再生させる事になりそうです。
37Secondsは、彼女と家族に過酷な人生を課してしまった運命のリング。人は、それを乗り越えて行けるから。リングに囚われないで、自分の人生を生きろ!って言う映画。
最高。良かった!とっても!
これ、今年の邦画の年一候補だす。
て言うか、あれ、川上奈々美ちゃんだったん?
気付けよ、俺w
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3/17追記
この作品は文化庁の補助を受けています。製作費1億円以上の映画に対し、所定の申請を受けたものの中から、文化庁が補助する映画を選定。補助額は¥1,000万円。でもね。なんかね。韓国の映画関連の政府補助年間予算は300億円だったんじゃなかったっけ、2018年あたりが。ウォンじゃ無くて円。もうね、こんな映画はバンバン補助して、宣伝して、皆に見てもらわなきゃアカンのじゃないかって思います。
また、NHKのクレジットが出てきます。基本的に、NHKは放送法の規定により、商業映画の制作を含めた営利事業に直接関与できません。よって「制作協力」を行うのみ。NHKクレジットの後に出て来た氏名は30名くらいだったでしょうか。結構、ガッツリ行ってます。だがしかし。これ、商業映画なので当のNHKは宣伝もできへんやん。だから、関連番組を作って放送して、間接的に広報を支援するしかできないんでしょう。残念です。
また。B級邦画でお馴染みの面々が顔を揃えた感のあるキャスト。皆様、いつも通りで安定して良かった!
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3/22 ちょっとだけ追記
もう怖く無いですか?
お母さんにも会いに来てください。
障害者だと聞いて、怖くて会いにいけなかったと言う双子の姉ユカに、ユマが言った言葉の重さに。滝。2回目も、ここが滝。ツインタワー、じゃ無いね。ダブル瀑布どした。
主題と映像が見事に一体化した作品。
監督のHIKARIさんも、主演の佳山明さんも共に新進気鋭で、その瑞々しい感性、熱意が物語の推進力になっています。
当初は予告編の印象から、障害を持った主人公が自立に奮闘する感動物語では、と予想していました。確かに前半の展開は概ね予想の範囲内でしたが、後半から物語は大きく飛躍します。この物語上の跳躍には驚かされましたが、主人公ユマと「ある人物」との別れ際の、短いが重要なメッセージを含んだ会話に心打たれました。その言葉、二人の身体の温かみが、スクリーンを超えてまさしく自分の身体から発せられたものであるかのような感覚を覚えました。
本作はとにかく撮影が素晴らしいです。冒頭の都市を上空から捉えた映像は、焦点の合う範囲が極端に狭く、まるで精巧なミニチュアを撮影したようです。この映像技法はそれほど真新しいものではありませんが、本作で重要な意味を持つ、「距離感の喪失」を視覚的に表現していました。
また狭いマンションの一室、猥雑な繁華街、自然溢れる屋外など、状況も雰囲気も大きく異なる場面それぞれの場面をつなぎ合わせても、決して映像的な統一感を失わず、かつ車椅子のユマがそれぞれの場面で浮き上がらないように、慎重に照明やアングルを選び取っていることが分かりました。
主演の佳山明さんの表情、立ち振る舞い、そして体当たりの演技も素晴らしいですが、介護福祉士、俊哉役を演じた大東駿介さんや芋生悠さんも良かったです。後半の舞台に完全に溶け込んでいて、最初からそこに住んでいたかのようでした。
あまり重要な欠点ではないのですが、前述の俊哉とそれに関連する人々がなぜユマとここまで深く関係するのか、もう少し説明があると良かったかな、とも思いました。また物語の後半への移行は、現実には手続き上そんなに簡単なことではないと思うので、これについても短い描写でそれとなく説明があると良かったかも、と感じました。こうした細部の飛躍が気になって、気が削がれる観客もいると思うので。
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