「人は欲望を足がかりにして成長していく」37セカンズ マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)
人は欲望を足がかりにして成長していく
1979年にNHKで、『車輪の一歩』というドラマがありました。山田太一の脚本。障害のある青年が、母親に「トルコへ行きたい」と頼むんです。トルコ風呂、今でいうソープランド。両親はお金を出して「行っといで」と送り出す。でも店は危険を理由に入れてくれなくて、家に帰って「あはは、よかったよ」って言いながら、泣きくずれる。
当時、高校生だった私には、その切なさが心にしみました。(健常者です、私は)
2005年『私は障害者向けのデリヘル嬢』が出版され、障がい者の性がオープンに語られること、それが商売の対象になっていることに驚きました。
そして、NHK教育放送の『バリバラ』では、障がい者の性が主要なテーマの一つになっているように思います。
遅々とした歩みではあるけれど、障がい者の欲望が、肯定的に取り上げられる世の中になってきていることは喜ばしいことです。
そして、この『37セカンズ』。初の長編作品とは思えない、HIKARI監督の力量に驚きました。女性の障がい者の性を切り口にしながらも、親からの自立、成長の物語として、つまり誰にも当てはまる私自身の問題の形で提示してくれました。
映像による説明は的確で、説明くささはみじんもありません。台詞とのバランスでしょうか。そして、画像の構図の面白さ、色調の美しさ。繊細な感性を感じます。
わき役の演技も秀逸でした。神野三鈴さん、渡辺真起子さん。舞台で活躍してきているんだろうと思わせる演技に、心動かされました。その演技を引き出すのはHIKARIさんの人柄なんでしょうか?いやいや、技と感じさせないさりげない技が、役者を生かすのかもしれません。
たまたま入った創作料理の新しい店が、思いもよらず最高だった。まだそれほど人知れた店ではないけれど、何度もリピートしたくなる。そんな存在がHIKARI監督になりました。