「面白さも動かない」太陽は動かない 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
面白さも動かない
AN通信。
表向きはニュースのネット配信を行う通信社だが、実際は、機密情報を高値で売り買いする産業スパイ組織。
エージェントたちは心臓にチップ型の爆弾が埋め込まれ、24時間ごとの連絡をしなげれば裏切りとみなされ爆発する死の恐怖の中、日々過酷な任務に挑んでいる。
次なる任務は、次世代エネルギー開発の極秘情報。
それを巡って、エース・エージェントの鷹野は相棒の田岡と共に、各国のエージェントたちや大国の組織と熾烈な頭脳戦/争奪戦を繰り広げる…。
吉田修一のシリーズ小説2編が基。(『太陽は動かない』『森は知っている』)
監督は『海猿』の羽住英一郎。
主演バディに藤原竜也&竹内涼真、韓国からハン・ヒョジュやピョン・ヨハン、佐藤浩市ら豪華で国際色豊かなキャスト。
ブルガリアで約1ヶ月の海外ロケ。市街地を完全封鎖して、大規模なアクション・シーン撮影。
素晴らしい材料が揃った、大スケールの邦画スパイ・アクション!
…そうなのだ、またしても。
材料は素晴らしいのに、奇妙な事に味はいまいち。
いつもながらの邦画誇大アクション…。
スケールは充分、藤原竜也らの身体を張ったアクションや熱演はいい。
入りのアクションもいい。
ここからノンストップで期待させる!…かと思いきや、案外そうではない。
確かにアクション・シーンはふんだんに盛り込まれているが、それがテンポ良く進むかと思ったら、途中途中足止めを食らう。
その足止めの原因と感じてしまったのが、時折挿入される鷹野の過去。
…いや、鷹野というキャラの人物像を知る/作る上で、重要。
だけどこれがねぇ、苦悩や葛藤どころじゃないほど暗く、重い。
洋アクションとは違う邦画ならではのドラマチック・アクション路線を狙ったのだろうが…、かえってそれがアクション映画としての魅力やテンポを悪くしてしまった。
そもそも、スパイ戦が『太陽は動かない』、挿入される少年時代が『森は知っている』に当たるらしい。今回の映画はその原作2本を一本の映画にしたもの。だから余計、ちぐはぐ感や無理矢理詰め込みを感じてしまった。
聞けば、WOWOWで先行して連動ドラマが放送。原作者によるオリジナル・ドラマらしいが、それを少年時代の『森は知っている』にして、映画はほぼ『太陽は動かない』に主軸を置き、フラッシュバック程度に少年時代エピソードが挿入でも良かったのでは…?
話の主軸もよく分からない。
その次世代エネルギー開発を巡る本格スパイ・アクションにしたかったのか、
鷹野の過去を含めたドラマを描きたかったのか、
それらをひっくるめ、例えどんな重く悲しく辛い過去であっても、今どんなに苦難(=過酷な任務)に直面しても、今日一日一日を生きる。
熱いメッセージだが、何だか主軸がブレブレ過ぎて響かない。
羽住演出は『海猿』同様、暑苦しい。おそらく『ルパン三世』路線を狙ったであろう韓国キャストの演出や作風はステレオタイプ。(でも、ハン・ヒョジュのおみ足は素晴らしく美しかった)
入りは良かったアクションもだんだんと尻窄みに。邦アクションあるある。
結局、心臓チップのタイムリミット設定もあまり活かされてなかったような…。
ハラハラドキドキ、スリリングにも欠けた。
脚本のまとめ方や演出に難あり。
何度も言ってしつこいが、いつもながらの失速邦画アクション…。
アクションと(近年は)重厚なドラマの『007』、抜群のエンタメ性『ミッション:インポッシブル』、これぞ本当にノンストップ・アクションの“ジェイソン・ボーン”…海外の名スパイに遠く遠く及ばず。
何だかラストは次なる任務に動き出しそうだけど…
次なる任務には動かないだろうね。
おはようございます。
日本にはいまだスパイ防止法がない唯一の国なので、スパイ映画の基本が「架空」でしかないところに面白さが欠如してしまうのでしょうね。
日本はSFも苦手だったのですが、「隣人X」や「宇宙人のあいつ」など期待され始めました。
スパイ作品も突破口となる作品が出ればいいですね。