劇場公開日 2019年3月15日

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「時代の変化が静かに人々を呑み込む」サンセット ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5時代の変化が静かに人々を呑み込む

2019年3月21日
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物語は、第一次世界大戦の前、そして、最後のハプスブルク家が崩壊する直前の頃だ。

こうした歴史の大きな転換点の前夜には、なにかスペクタクルな物語や激情を期待しがちだが、これはイリスが、兄を探しながら見つめた時代の変化で、オーストリアに隷属するハンガリーの鬱屈とした雰囲気や、最後のハプスブルク家の退廃、女性をモノとして扱うような世情が、その時代の重苦しい雰囲気とともにスクリーンに映し出される。

決して明るい雰囲気など無いに等しかっただろう。
帽子店の30周年を祝う場面も、どこか炭酸の抜けたソーダのようで、参加している人々も気持ちがこもっているとはとても思えない。

こうした表現が示すように、退廃は密かに闇に深く根付き、それに対抗する変化も静かに、細心に、そして徐々に訪れるのではないか。
兄を探すイリスが、レジスタンスに身を投じる決心をしたエンディングの場面も、観る側のイマジネーションを試されてるかのように感じる。

抑圧された人々の権力に対抗する決意や、命を投げ出そうとする勇気も、悲壮感に満ちたものだったのだろう。

今、訪れるとウィーンも、ブダペストも美しく、歴史の重みも伝える。
映画のような暗澹とした雰囲気はない。
世界遺産にもなった人々から愛される都市が、ハプスブルク家が中心になって造った都市であることは歴史の皮肉でもある。

過去から何を学ぶのか、どのようなプロセスを経て、現在の自由を獲得したのか。
そして、今でも自由を希求して、抑圧された環境で闘っている人がいることを知っているのか。
きちんと向き合う時が来ているのではないか。

普段は読まないのだが、ある週刊誌の、この映画の映画評を読んでしまった。
監督は上から目線だとか、撮り方がどうだとか、色々書いてあったような気がする。
僕は伝えたいことがあるから、こうした作品に仕立てられたのではないかと考える。
評論で差別化するのはなかなか難しいとは思うが、例えば、映画における上から目線の撮り方とは、具体的にどんなことを指すのか、ちょっと聞いてみたくなった。

ワンコ