劇場公開日 2020年3月20日

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「満員の劇場内から伝わる緊張感」ナイチンゲール bionさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0満員の劇場内から伝わる緊張感

2020年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 一体どこに救いがあるだろうかこの物語に。オーストラリアでイギリス軍が行った非道な所業について、また、アイルランド人の受難の歴史を調べて、咀嚼しないと僕自身の魂がおかしくなりそうだ。

 夫をイギリス軍に殺されたアイルランド人がアボリジナルと一緒に仇を追いかける。ある意味西部劇だと聞かされていたが、とんでもない。この物語には、カタルシスも感動もない。
 陵辱を受ける女性たちの心の叫びに、心をえぐり取られ、イギリス人にとって邪魔というだけで殺されたアボリジナルの無残な姿を見て義憤にかられる。

 『ナイチンゲール』は、とんでもないバイオレンス映画だって前評判だったけど、ジェニファー監督の前作『ババドック』は、ホラー映画というよりは、お伽話のような内容だったから、映画会社の大げさな宣伝くらいに考えていた。間違いなく、超ハードバイオレンス。
 躊躇しながら、相手を殺すシーンなんかは、微妙な間がある上に、何度も振り下ろすから、肉片化する顔も、返り血もリアリズムの極致。

 ゲーム・オブ・スローンズでお姫様だった、アイスリング・フランシオシの体をはった演技がもう凄い。

 アボリジナルのビリーが叫ぶ『ここは俺たちの土地』『ここは俺たちの国』
 現実にはその後も続く虐殺、民族浄化のオーストラリアの歴史。大英帝国の子孫である人たちは、この事実をどこまで受け止めているのだろうか。

 コロナ騒ぎもかかわらず、僕が見た回はソールドアウト。その価値は十二分にあった。

追記
 アボリジニは差別的なニュアンスを含むので、最近ではアボリジナルと呼ぶのが一般化しつつあるということなので、アボリジナルに訂正しました。
 最盛期に約3万7千人いたタスマニア島のアボリジナルは、1876年に純血のタスマニアン・アボリジニはとうとう1人もいなくなってしまった。ジェノサイドされたのはビリーの部族だけはなかった。言葉がでない。

bion
Bacchusさんのコメント
2020年3月21日

本日いらしたんですね。
予約していたので1回上映とはいえソールドアウトとは知りませんでした。
鑑賞年齢層が高かったですが若い人にもみてもらいたいなと感じました。

Bacchus
グレシャムの法則さんのコメント
2020年3月21日

正直に言うと、ふと浮かんだ想像で怖くなり、この映画はスルーしたくなりました。
中国大陸や東南アジアの植民地で、旧日本軍も同じようなことをしていたのではないだろうか。それに関しての事実認識や総括というのは、誰がどんなかたちで済ませたのだろうか、或いは手付かずのままなのか、というようなことです。
きっと、三島由紀夫と全共闘の映画を見たからだと思います。すみません、こんな迷惑なコメントしてしまいまして。

グレシャムの法則