劇場公開日 2019年2月15日

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女王陛下のお気に入りのレビュー・感想・評価

全226件中、21~40件目を表示

4.5格調高くてお下劣な歴史コメディ

2024年2月6日
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鑑賞方法:VOD

すごく面白くて、毎日この作品ばっかり見ちゃいました。私は吹替派なのですが、セリフに乗せられた感情まで全部知りたくなって、両方交互に見ましたよ。

ということで基本情報。
監督:ヨルゴス・ランティモス(1973年生、公開時45歳)
脚本:デボラ・デイヴィス
   トニー・マクナマラ(1967年生、公開時52歳)

制作国:イギリス、アイルランド、アメリカ
製作会社:フォックス・サーチライト・ピクチャーズ 他
配給:20世紀フォックス

出演
オリヴィア・コールマン(1974年生、公開時44歳)
エマ・ストーン(1988年生、公開時30歳)
レイチェル・ワイズ(1970年生、公開時48歳)

歴史劇ですし、きっとイギリス人ならきっと学校で習う内容でしょうから、歴史的事実も確認。

・アン女王(1665〜1714、享年49歳、在位1702〜1714、劇中37〜45歳)
・アビゲイル・メイシャム(1670〜1734、享年64歳、劇中32〜40歳)
・サラ・ジェニングス(1660〜1744、享年84歳、劇中42〜50歳)

・国務大臣ロバート・ハーレー(1661〜1724、享年62歳、劇中41〜51歳)
・大蔵卿(首相)シドニー・ゴドルフイン(1645〜1712、享年67歳、劇中57〜65歳)
・マールバラ侯爵ジョン・チャーチル(1650〜1722、享年72歳、劇中52〜60歳):サラの夫、軍最高司令官
・マサム男爵サミュエル・マサム大佐(1679〜1758、享年79歳、劇中23〜31歳):アン女王の小姓・侍従、アビゲイルの夫となる

この映画で描いているのは1702〜1710年、およそ8年間の出来事のようですが、時間経過をモヤッとさせている作品ですし、当時の人たちは生没年月日が曖昧な場合も多いので、厳密な年齢表記ではありません。

それからイギリスという国は島国ではあっても日本と違って単一民族国家ではなく「連合王国」という何とも微妙な国家形態で、その歴史もゴチャゴチャややこしい所があるので、歴史背景の理解も多少複雑です。

あくまで私の個人的な理解、超乱暴で超ザックリなイギリスの歴史ですが…
①イングランド成立
②イングランド + ウェールズ = イングランド
③イングランド + スコットランド = グレートブリテン
④グレートブリテン + アイルランド = 大英帝国
⑤大英帝国 - 南アイルランド = イギリス
って感じ。

①は西暦1000年頃?で漫画『ヴィンランド・サガ』の時代。
②は1300年頃?イングランドが勢力拡大。
③は正味1600年頃?、正式には1700年頃?
④が1800年頃?
⑤は第一次世界大戦の後。「狂乱の20年代」の出来事

③の少し前からイギリスの歴史は面白くなりますね。絶倫王ヘンリー8世以降、娘のエリザベス1世の時代まで、何度も映画化されるようなドラマチックなエピソードが続きます。そして結局、子供のいないエリザベス女王が崩御して、遠い親戚であるスコットランドの王様がイングランド王も兼ねるようになります。1人の王様が2国を治め、劇的な歴史ドラマは一区切り。

ここでイングランド王 兼 スコットランド王となったのがジェームズ1世。そのひ孫が本作の主人公アン女王。

ただしイングランドとスコットランドは宗教とか政治の派閥争いで色々とモメまして、なかなか合併できません。およそ100年かけてようやくアン女王の時代に正式合併してグレートブリテン王国になります。

その後、ヨーロッパは帝国主義、アメリカ独立、フランス革命、ナポレオン戦争、産業革命…等々、激動の展開を迎えるんですが、時代のうねりに耐えうる国力をキープするため半植民地のアイルランドを吸収して④大英帝国に。

ここから先、アイルランドではジャガイモ飢饉がありますが、大英帝国全体で見ればヴィクトリア女王の統治下「パクス・ブリタニカ」を謳歌して世界一強い国になって行きます。

やがて第一次世界大戦が勃発。大英帝国の中でもアイルランドではジャガイモ飢饉からずっと悪影響が尾を引いており人々の不満が溜まっていたのですが、国際的な戦争が終わって世界が平和になり「狂乱の20年代」を迎えると、せいせいと仲間割れができるようになりましたね…ということで、南アイルランドがイギリスと喧嘩別れ⑤。

そこから先は世界恐慌、ファシズムの台頭、第二次世界大戦、アメリカの台頭、ソ連の台頭、アイルランド紛争、冷戦終結、EU拡大、ブレグジットで今に至る…って感じ?

そんなイギリスの歴史ですが、本作は多分に政治劇の要素があります。

当時の政治状況も確認しておくと、アン女王のひいお爺さんであるジェームズ1世のときに歴史が一区切りしてますが、その後イギリスは宗教と王位後継者の問題で清教徒革命とか名誉革命とかゴチャゴチャ揉め続けます。

そんなこんなの成り行きで王様の権力はだんだん制限され、議会の力が無視できなくなって行きます。議会では穏健右翼のトーリー党と、穏健左翼のホイッグ党という二大政党制が成り立って行きます。

トーリー党はどちらかと言えば王様重視、ホイッグ党はどちらかというと議会重視。宗教的にはどちらもプロテスタントですが、トーリー党の方が厳格で、ホイッグ党の方は寛容。トーリー党は現在の保守党、ホイッグ党は現在の自由民主党。

ややこしいのは、両党員とも考え方がスパッと白黒分かれている訳ではなく、人によって微妙なスタンスを採るんです。

本作の登場人物でも、ゴドルフィン大蔵卿はトーリー党だけど案件個別な動向を示すし、ハーレー北部担当国務大臣はもともとホイッグ党だけどアン女王の治世にはトーリー党に転向してます。政治的には無所属のはずの軍人マールバラ公爵は、交友面ではゴドルフィン大蔵卿と仲良しで、政策面ではかなりホイッグ党寄りです。

さてさてそんな中、おバカちゃんでも愛嬌のあるお姫様だったアン王女は、王位継承順位がそれほど高かった訳ではなく、子供の頃にメイドのサラと超仲良しになります。サラは厳密には貴族の血筋ではなく、いわば豪族の家柄で、やがて若き没落貴族の軍人ジョン・チャーチルと結婚。アン王女もデンマークの王子様ジョージを婿に取ります。

イギリスでは宗教問題と王位継承問題がこじれてクーデター起きて王様が追放されたりします。アン王女の王位継承順位はどんどん上がって行き、とうとう37歳の時、女王に即位。アン女王に従うメイドのサラと夫のジョンも立場や家格を上げていき、アンが女王に即位した時、サラは10歳年下の従姉妹アビゲイルを宮廷の女官を斡旋します…というあたりから本作のストーリーが始まっています。

さて本作はヨルゴス・ランティモス監督の作品でも、脚本家がこれまでと違います。

デボラ・デイヴィスさんというのは、あんまり情報が見つからなかったのですが、ネットで見つけた写真を見ると60歳くらいかなぁ…。主業は弁護士・批評家だそうですが、若い頃には脚本の勉強をなさり1998年に本作の原作『バランス・オブ・パワー』という脚本を著してラジオドラマになったりしたそうです。非常に博学・多才な人ですね〜。

その原作を映画用に仕上げたのが監督さん(脚本家としてはノンクレジット)とトニー・マクナマラさん。トニーさんはオーストリア人で、TVドラマや映画の脚本家からキャリアをスタートしてました。

また、見事な衣装が印象的だったので確認したところ、サンディ・パウエル(1960年生、公開時59歳)さんという方が担当。この方は超大御所でした。納得。

それから、効果音というかBGMというか場のムードを程よく緊迫させ、同時に脱力させる絶妙な音楽を担当したのは、ジャースキン・フェンドリックス(1995年生、23歳)さん。何という若さ!彼の才能も凄いけど、この才能を発掘したことも凄いし、それを躊躇なく起用したのも凄い!

ヨルゴス・ランディモス監督、役者に淡々と棒読みをさせる演出がほとんどなくなりましたね。そのせいかシュールなムードがずいぶん減りました。

本作は基本的にイギリス映画ですが、ヨルゴス・ランティモス監督の作品としてはとうとうハリウッドメジャーのフォックス社がメインで製作・配給をしています。監督の作品、どんどん規模が大きくなってます。

実際いかにもお金がかかっていそうで凄く贅沢な映像でした。こんなに格調高くて豪華な美術なのに、こんなにしょっちゅうお下劣なことする歴史コメディ映画は見たことない!

脚本家が変わったためか、監督さんの変態趣味もかなり抑えられた印象。ただし、変な踊り、容赦のない動物殺し、手コキ、自傷シーンはもはや監督さんのフェイバリット・ホールドですね〜。

インパクト重視のエグいシーンに度肝を抜かれますが、本作の主軸は権力や親愛の情を巡る人間ドラマです。

そこはきっと原作脚本が実に上手くできているのでしょう。史実では当然もっと多くの人物がアン女王に関わって大きな影響を与えていますし、本作で描かれている時代にはもっと重要な出来事が沢山ありました。それをドラマチックな仕上がりになるよう巧みに取捨選択し、時間経過を見事に圧縮して、完成度の高い1本の物語として仕上げられています。

初見時、この作品の主人公はアビゲイルだと思い込んでいました。平民出身の女中がタイトルどおり「女王陛下のお気に入り」に成り上がって行く話だと。

しかしやがて、アン王女、サラ、アビゲイルの3人が主人公だという理解に。

そして繰り返しこの作品を見て、ストーリーの背景まで調べたら、一番思い入れのある主人公はアン女王になりました。

史実では(本作でも)、アン女王は何度も何度も妊娠してますが、子供たちは全員死産・流産・早逝し、合計17人の子供を失っています。また仲の良かった夫にもアン女王が43歳の時に先立たれています。

さらに、当時は「王権神授説」という考え方があって王様たちは現人神みたいな扱いをされていました。王様が触るとケガや病気が治るという「ロイヤル・タッチ」という奇跡の儀式みたいなことをアン女王もやらされたそうです。

アン女王自身は、そんな神通力ありゃしないと自覚していたでしょう。しかしロイヤル・タッチに限らず、国王の職責に抗い切れないことは山ほどあったに違いありません。

愛する家族を失い、政治・宗教・職責に翻弄される孤独な立場の最高権力者のアン女王と、そのお気に入りの女官たち。この映画の本質は正統派の人間ドラマでした。

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ケンイチ

4.5登り詰めた先に見えたのは、どんな景色だったのか

2024年2月2日
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サラを失脚させてその位置まで登り詰めたアビゲイル。自分の言う通りに振る舞うよう求めてくる幼馴染のサラを切り捨てて、女王らしく自分で決断する道を選んだアン。最後にぼんやりと宙空に目線を送る2人の目には、どんな景色が映っていたのだろうか。
その2人の姿を見ていると「あなたにとっての幸せは何?」と、問いかけられているような気持ちになってくる。

閉じられたドアをはさんだ、アンとサラ2人のやり取りのシーンが良かった。鮮やかなコントラストと、ハッとするセリフ。それによって、登場人物の見え方も変わってきた。

どこまで時代考証が正しいかわからないが、貴族たちの生活がとても興味深い。また、「哀れなるものたち」につながる映像の美しさや、魚眼レンズの効果的な活用も面白かった。

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sow_miya

4.0おんな三人の…熱き闘い

2024年2月1日
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アン女王陛下も
濃いキャラで楽しめました
でも。見所は
エマストーンの
…アビゲイルですね
侍女から貴族まで上り詰めていく
女王陛下の身の回りの世話役から
徐々に信用を得て側室まで這い上がる話

どこにでもあるお話ですが
エマストーンの目力が凄くて
圧倒されます
サラとアビゲイルの二人の熱き
闘いがはじまる…駆け引きの結果
サラが引き下ろされることとなるが。

台詞の中にシャレと言うか
シュールな笑いもあり
コミカルさもあって面白い
お城の中も豪華で
夜のお城の映像ロウソクの灯りと
暖炉の火が素敵に映る

ラストも……
アン女王とアビゲイルを
交互に映しす所は興味深い
アビゲイルの正体もわかり
自分を愛してくれていたのは
…サラだと分かったはず。
顔のアップはきめ細やかな
表情を映し出している
三人の心模様が見事です
…おもしろい…
美術、音楽、お城の雰囲気が
おしゃれな作品でした

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しろくろぱんだ

3.5ものすごい熱量、オスカー女優のアンサンブルに圧倒される120分

2024年1月23日
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王女アンを熱演するオリビア・コールマンさんが本作でオスカー主演女優賞(2019 Academy Award for Best Actress)を受賞しています
ワガママで政治に一切興味がない子供みたいな暗君を圧倒的な存在感で熱演、オスカー受賞も納得です

そして王女の側近を演じるレイチェル・ワイズさん、「ナイロビの蜂」でオスカー助演女優賞(2006 Academy Award for Best Supporting Actress)を受賞しています
暗君を支えるが故に形成されていったのであろう高貴で厳格な女性がエマ・ストーンさん演じる侍女によって徐々に壊されていき、しまいには命まで落としかけるサスペンスフルな展開
その攻防戦を含め、全体的に本作でのレイチェルさんの鬼気迫る雰囲気にただただ圧倒されます
そして、とてもシュッとしたクールビューティな雰囲気に痛々しい傷を隠すための黒いスカーフを使ったアイパッチがすごく似合っててゴージャス、本当に綺麗な女優さんだなと思いました

そして・・・エマ・ストーンさんも圧倒的でした
彼女も「ラ・ラ・ランド」でオスカー主演女優賞(2017 Academy Award for Best Actress)を受賞しているオスカー女優、その実力を更に発揮されている様で、沒落した元貴族の復権を狙い、侍女から女王の側近に上りつめていく、狡猾な悪女を静かに力強く演じており、凄いです

と、とにかくこの3人がバッチバチの火花を散らしながら魅せる、素晴しくシュールな愛憎劇の傑作、18世紀イギリスの原風景や宮殿、そして貴族社会など、映像も豪華絢爛で素晴しく、見応えがあって必見です

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Jett

3.0女王の悲しみ

Mさん
2023年12月17日
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これが史実かどうかは知らないが、こんな中で生きていた女王はきつかったろうなと思う。

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M

3.5私は嘘をつかない、それが愛よ

2023年12月15日
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知的

難しい

強欲というよりは、業欲と言うべきか。
そんな深い泥沼の様な醜悪な愛憎劇。
一見きらびやかな王宮の裏側を垣間観せられた。
そのきらびやかさを演出してた当時の様相が、醜態を表している。あの裏に一般の国民の苦痛を見出すのは、考えすぎか?

国を司る立場で在りながら、自己愛の執着から逃れられない悲劇。人類史の儚さを見せつけられた。
深いな内容なのに、興味深く惹きつけられる。

故人的ではあるが、エンドロールも個性的でスクリーンで眺めたかった。

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奇妙鳥

3.0重たい重たい、重たい愛憎を描く一本

2023年11月27日
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鑑賞方法:DVD/BD

邦題から受ける、どことなく穏やかそう、楽しそうなイメージとは裏腹に、とてもとても、とてもとても、とても重たい愛憎劇の一本でした。

本作は、別作品『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』が素晴らしかったヨルゴス・ランティモス監督の手になる作品ということで観ることにした作品でしたけれども。
どうやら、家族や疑似家族(?)という、比較的近しい人々の愛憎を描くことを得意とする監督さんのようです。

どなただったか、ハンドルネームを失念してしまって、この作品に気づかせてもらったことにお礼が言えないのですけれども。
さすかに、海千山千の猛者揃い(?)の映画.comレビュアーをして「優れた愛憎劇」と言わしめるだけのことはあったとも思います。

本作についても、将来の国の命運を賭けた国家の維持(植民地の版図確保)のためには避けることができず、しかし、その戦費調達のための増税策に反対も声高に囁(ささや)かれる戦争のさなかにあって、その上に病にも押されがちな女王の双肩にのしかかる重圧は並大抵ではなかったことでしょう。
その一方で、没落貴族であるアビゲイルにしても、これからの「食い扶持」を確保するために宮廷に食い込むことをしくじる訳にはいかない。
そして、女王付の女官には、侍官としての面子・立場がある。

三者の重圧が三方向からまったく互角に衝突して、メリメリと軋(きし)む音が、画面の向こうから聞こえてきそうな気すらします。
そして、その圧力に押し負けて、いわば遠くまで弾き飛ばされてしまった(国外追放)現職の女王付女官のサラ。

本作は、別作品『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』での演技が、とてととても素晴らしかったエマ・ストーンの出演作品でということでも注目していましたが、期待を裏切らない重厚な彼女の演技にも、十二分に得心のいく、一本でした。

佳作であったと思います。評論子は。

<映画のことば>
私の心には「信頼」という発想がないし、黙って潰されはしない。
それは、あなたに習ったこと。
私を許せば、幸せに暮らせる。

(追記)
当たり前といえば、当たり前なのですけれども。エマ・ストーンにしても、別作品『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』で演じていた信念に燃えてはいても、どこか清々しかった、主人公を演じた彼女とも思えないほどでした。
こうも人格までもが変わってしまったかのように「役に入り込める」なんて、さすがはプロの女優さんというものです。御三方とも。
その「底力」を見せつけられた一本であり、映画というとものを見続けて行くことの「楽しさ」「奥深さ」ということにも思いが至った一本になりました。

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talkie

4.0キューブリックがお気に入り

2023年11月3日
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ヨルゴス・ランティモス自身の脚本ではないため、やる気半分のやっつけ映画だったのではと、勝手に想像して今まで鑑賞するのを控えていた1本なのです。アン女王の寵愛を受けるため側近の座を巡って2人の女官が醜い闘いを繰り広げるブラック・コメディは、ちょっと見フェミニズム・ムービーのような印象を受けるのですが、ランティモスが意図したことは全くの逆だったような気がするのです。

アン女王(オリヴィア・コールマン)が居を構えるお城の中の豪華な部屋や廊下、周辺の森の風景を超広角レンズで映し出したショットに軽い目眩を覚えながら、ちょっと待てよこれと似たシーンを遠い昔にどこかで観たような.....そう、スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』と同じ撮影法であることに気がついたのです。暴力をまるで人間の本能であるかのように描いた超問題作を、どこぞの名画座で『シャイニング』(アンが弱っていくくだりはこっちかな?)と二本立てで鑑賞した時のことを思い出したのです。(ちなみにロウソクシーンは『バリー・リンドン』か)

それはランティモスの確信犯的な演出だと思われるのですが、なかなかあっさりと真意にたどり着かせてくれないところが、この監督の深い魅力でもあるのです。私が思うにこの映画、人間とくに女性の複雑な“本能”についての作品なのではないでしょうか。コンプレックスや嫉妬にとち狂ってライバルを暴力的に排除しようとする(『時計じかけ.....』のアレックスのような暴力ための暴力を使った)女性同士ならではの冷酷な生存本能だけではないような気がするのです。

アン女王をSEXと言葉責め?で意のままに操っていたサラ(レイチェル・ワイズ)が侍女のアビゲイル(エマ・ストーン)の策略によってその座を奪われてしまいます。和解のためサラが女王宛に認めた手紙を読んだアビゲイルが、その手紙を暖炉で燃やしながらふと涙を流すシーン。『ブレードランナー2049』のラブが女性警察署長殺害の時に流した涙と同じ“不可解さ”を私は感じたのです。男性だったら間違いなく、相手に対して圧倒的優位に立ったことを確信し不敵な笑みを浮かべるところを、なぜアビゲイルは涙したのでしょうか。

死産や流産、病死で失った子供と同数の17匹の🐇を飼っていたアンは、「私は“愛”が欲しいのよ」と言って結局サラを城から追いやり、表面上自分に何も求めてこないアビゲイルを選ぶのです。そのアンを利用していたサラやアビゲイルもまた、けっして打算だけではない愛情をアン女王に抱いていたのではないでしょうか。誰かに愛されなければ生きていけない女性の悲しい“本能”。(『ブレードランナー2049』のラブや)アビゲイルは、女性ならではのその本能に気づいて涙を流したのではないでしょうか。

フランスとの和平を望むハーレー卿(ニコラス・ホルト)が陰ではアビゲイルに平気で暴力を振るう下衆野郎として描かれているため、本作をマチズモ批判のフェミニズム映画と勘違いされた方も多かったことでしょう。しかしラストでは、女王アンに杖替わりに頭を上から押さえつけられ、屈辱感を顕にするアビゲイルが、(アビゲイルが踏みつけにした)🐇ちゃんたちの姿にオーバーラップしていくのです。所詮死んだ子供たちの代替えにすぎないことを身を持って知るのです。たとえお金があって身分を保証されていたとしても、“愛”なしには生きられらない存在であることを思い知らされるのです。

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かなり悪いオヤジ

4.0特別映像も、何度でも観たくなる!

2023年6月8日
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楽しい

怖い

知的

女性3人のパワーバランスに関わるあれこれは、実際すごく身近にもあるわけで。でもやっぱり、国を動かす権力だとか、再び良い身分にのし上がりたい!というような野望が絡んで来ると、サラとアビゲイルの戦闘モードともいえるエネルギーが半端ないです。

なので、アスリートの陸上競技を応援し終わった後のような、徒労感がこちらにも押し寄せて来ます。役者さん頑張り過ぎ…かな。監督の過去の作品見ちゃうと、そうなってしまうのか?才能には才能で応えたくなるような。

映像の元が美しく、そこへ到達するまでのこだわりが半端ないです。ボーッと字幕も読まずに観る、そんな鑑賞にも耐えられると思います。ただ、音楽が一筋縄で行かないから、無理かもしれませんが。

それにしても、この作品の構想から、実現までの道のりを、むしろ観たいかも。誰がお金を出しますよと言い、キャストはもちろんクルーも、どうやって揃え、まとめて行ったのか。主演の3人は3週間のリハーサルがあったそうだから、その間に裏方は詰めて行ったのかな?

最近の映画は、どんなに凄くても、どうせCGでしょ?と思ってしまうのが、この映画には無くて。それが本当に凄い!と、思いました。

ところで、女王様のオリビア・コールマンさんと、日本の女優、平岩紙さんが似てるな…と思えたのは、私だけ?

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Apollōn_m

4.018世紀を覗き見

2023年5月21日
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鑑賞方法:VOD

画が綺麗。
お話はドロドロ。
映画から押し寄せる圧がすごい。
そんな映画だった。
この感じ、嫌いじゃない。
いきなりアンの部屋に圧倒されてしまう。
魚眼レンズを使ったカメラワークで見せてくれる。
まるで18世紀を覗き見している感覚。
原因不明のゴワーンって不気味な音。
なんの音なんだ〜!
見ていてほっこり落ち着かない。
なんだか居心地が悪く、不安定な感じで進んでいく。
もっと宮廷の装飾品を楽しみたいのに。
二回目は音を消して、ところどころで一時停止しながら画を楽しもう。

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ピッポ

2.0The favorite

2023年1月25日
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悲しい

怖い

What kind of love is that.

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Wave 🌊

2.0ジャンルの中にコメディと記載されてましたが。

2022年9月25日
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ある意味女王陛下のお気に入りになる為やり合いがコメディと受け止めれるかも知れないが笑えるタイプでは無かった、もっと軽い感じかと思ってました。
お気に入りってそっちの意味もあるのね、多分。

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しじみの短い感想文

4.0既視感はベルばらだった

2022年9月10日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ストーリーが進むにつれこういう話なんだと、どんどんエスカレートしていき最後の最後までぶっちぎった感のある、ある意味潔くも勇ましい女の世界。女王陛下を題材にこれってぶっ飛びますよね!ここまでさらけ出してくれるとなんだか快感でもありました。それと館の内部、貴族の生活の様子、何より女性のドレス、この懐かしさはなに?と考えていたらベルばらの漫画で見たあの煌びやかさだと気付きました。

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Sheeta

3.0女王陛下のお気に入りの座をめぐっての女と女のバチバチバトル。 始め...

2022年6月23日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

女王陛下のお気に入りの座をめぐっての女と女のバチバチバトル。
始めは純なアビゲイルも地位と欲に染まっていく。
人間の心の移り変わりや、変わった愛の形。よく描かれていたと思う。
それぞれの演技も光っていたし、映像も良かった。
楽しめました。

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よっしー

4.0映像で人間心理を描く見本

2022年4月8日
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カメラワークと陰影の使い分けで人間心理を表現する手法には感服します。
特に宮殿の中を人が動く場面で、超広角レンズで撮った「覗き見」感覚映像が多用されていて特徴的です。
主役三人の演技も秀逸です。いろんな映画サイトで「コメディ」のジャンル分けされてますが間違いです。むしろシリアス劇なのでご注意。

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越後屋

4.0飾りを捨てた女達の宮廷愛憎劇

2022年3月21日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

怖い

興奮

単なるドロドロした愛憎劇ではなかった。本作は、史実と愛憎劇を巧みにブレンドしていることと、宮廷を舞台にしたことが奏功している。ブラックユーモア、卑猥な台詞は飛び交ってはいるが、気品ある三人の女達の宮廷愛憎劇として出色の出来映えの作品である。

本作の舞台は、18世紀初頭のイングランド宮廷。アン女王は、健康に恵まれず、優柔不断であり、大切な決断は、側近のサラ(レイチェル・ワイズ)が牛耳っていた。ある日、サラの従妹と名乗るアビゲイル(エマ・ストーン)が召し使いとして雇われる。そして、サラとアビゲイルは、女王の側近の座と、寵愛を得るために、激しく競い合っていく・・・。

ハラハラ、ドキドキするストーリー展開に加え、左右/横の動きを極力排除し、奥行きへの動きを多用したカメラワークが効いている。横の動きは平面的であり安心感があるが、奥行きへの動きは立体的であり不安感がある。観客の不安感を煽っている。全編、落ち着いて観ることができない。

男勝りで強気なサラ、柔らかで狡猾なアビゲイル。彼女達の虚々実々のバトルが本作の真骨頂である。一切の虚飾を排除した、剥き出しの本性のぶつかり合いは、凄みがある。理性という鎧で本性を隠して生きている私の心を強く揺さぶる。権力奪取という欲望を満たそうとする彼女達は超利己的であるが、その眼は輝き生気に溢れている。反面教師かもしれないが、彼女達の生き方は人間らしいからである。

一方、サラとアビゲイルに翻弄されるアン女王は、彼女達の渇望する権力の頂点にいるが、迷い続けている。悶々としている。物質的な豊かさを享受しながら、権力を持て余し、精神的な豊かさを求めている。女王の姿は現代人の鏡のようであり切ない。

本作は、本性のままに生きる女達を描くことによって、組織に縛られて身動きが取れず、没個性化している現代人への鋭い問題提起をしている。人間らしさとは何かを深く考えさせられる作品である。

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みかずき

3.0ヤバいね、、、

2021年12月26日
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鑑賞方法:VOD

まさしくオリヴィア・コールマンの怪演
撮り方も神経にくる感じでイヤだわ〜
この後なのね『the clown 』のエリザベス女王を演じるのは
『ファザー』の娘役も良かったし

ほえ〜すご〜い

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mamagamasako

4.0筋金入りの変

2021年5月31日
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ドラマシリーズの「SPEC」のwikiに、こんな記述がある。

『一方、今井舞は同じく『週刊文春』のドラマ記事で「今期ワースト」「全てが『これ、面白いでしょ』の押しつけ」などと批判している。』
(ウィキペディア「SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜」より)

むろん、これはマイナス意見の切り抜きで、同ドラマは、日本の代表的な異色ドラマとして語り草になっている。──が、「押しつけ」には同意できる。
SPECでなくても、多数の日本の映画・ドラマの演出で『これ、面白いでしょ』の押しつけ」を感じることが、よくある。
個人的に、よく感じるのは『これ、面白いでしょ』の押しつけ」というより『こんな世界を描けちゃってる俺/私って凄くない?』という感じ。
なんていうか、描写を過剰にしているだけなのに、どや顔でそれを誇っている感じ。園子温に代表されるようなスタイル、とでも言えば解りやすい。(と思われる。)

この「どや顔」を(個人的にはほとんどの)日本の映画・ドラマで感じる。
それゆえ、ランティモスの映画は、その(日本映画の)対極にある。と思う。

籠の中の乙女、ロブスター、鹿殺しときて、本作でもランティモスは、奇矯な世界を、涼しげな顔で描いている。「涼しげな顔」とは「どや顔」の対比であって、じっさいは涼しい世界ではないが、言うなれば『僕の描く世界は凄くないし、ぜんぜん、ふつうですよ』みたいなポーカーフェイスで、ゆがんだ世界を描いている。

もし日本映画が「どや顔」をしなければ、それだけで、クオリティが倍増するだろう。
つまり、日本映画のもっともクリティカルな弊害は、監督が映画というものを『天才的な人しかできない、とってもエラい(崇高な)仕事』だと、捉えていることにある。と、わたしはけっこう本気で思っている。(この感慨を裏付けるような日本映画がとても多い。)要するに謙虚じゃない。謙虚じゃないから「どや」りが、画からにじみ出てくる。
勝手な持論に過ぎないが「どや」りは日本映画だけに存在する特長で、黒澤と小津が日本映画にもたらした負のレガシーである。
(もちろん黒澤・小津はわるくないが、天才すぎる双頭が「映画監督はスゲえ存在なんだぞ」──と、後世に及ぶポジショニングをしてしまったゆえ、それに浴する凡人があらわれる、という仕組みがつくられてしまった。←ばかっぽいロジックだけど、自信のある持論です。)

むろん、このレビューで日本映画/映画人を持ち出しているのは、とばっちりだが、ランティモスと並べると大人と子供な対比になるので、牽強付会を承知で比べてみた。

わたしは、籠の中の乙女(2009)にたいへんな衝撃を受けた。いったいこのひとたちはなにをやっているんだろう?なぜ?なんで?どうして?・・・。
だが、もしランティモスが籠の中の乙女をどや顔で描いていたら──「どうだい、不安だろ、怖いだろ、不可解だろ、いったいなにをやっているかって、衝撃受けるだろ?」みたいな承認欲求がにじみ出てしまっていたら──籠の中の乙女は「ふつうの変な世界」だったと思う。

すなわち、監督のどや顔=承認欲求の有無だけで、映画のクオリティは雲泥になる。
なにくわぬ顔で描かれている、奇妙な世界が、どんなに凄いか──を、わたしはランティモスの映画で知った。

ただしランティモスの凄みは、たんにポーカーフェイスで描いているから──だけではない。本作は、アカデミー賞(助演女優)をもたらしているが、メジャーになっても根底にある、歪(いびつ)な世界観はブレておらず、とうぜんクオリティの重心は、作風によるもの。世界中どこを探してもランティモスみたいな映画はないし。ランティモスを見たあとでは近年のデイヴィッドリンチさえも「どや」りを感じてしまう。

籠の中の乙女を見たとき、これは「ヤバい」世界だと感じた。禁忌な感じがした。公的にするのはいけない気がする映画だった。だから、ハリウッドに招聘され映画をつくったことに驚いた。ヨルゴスランティモスの映画に、なんでアリシアシルバーストーン(鹿殺し)が・・・。解るだろうかこの感じ。ランティモス映画に米英のメジャー俳優が出てくるロブスターにも鹿殺しにも本作にも、──なんというか呉越同舟な魅力がある。禁断の世界の描き手がエマストーンを使ってしまう面白さ──がある。

野心的な下女が、成り上がっていく話。
なんとなく、のんきな、滑稽感もある気配ではじまるものの、じょじょにHarshな肌感へと変容していく。個人的に、見えたのは愛憎と「依怙地」である。アン女王(オリヴィアコールマン)はいわゆる癪症だが、脚の疾患をかかえて、それが促進されている。ほんとはサラ(レイチェルワイズ)が好きなのだが、好きを表現するのが、なんとなく悔しい。好きなんだろ──と図星を突かれて、反撥したくなったことはないだろうか?おそらく内懐は、そんな他愛ない葛藤であろうと思う。ただ女王ゆえに、気まぐれが、徹底した残酷な排斥へとつながっていく。その女王の気まぐれに加えアビゲイル(エマストーン)の戦略性にサラは嵌まってしまう。みすみす「お気に入り」を追いやってしまう、にんげんの矛盾した心象が描かれていた。豪奢な宮廷を超広角でとらえる撮影にも瞠目した。

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津次郎

4.5セリフ回しにドキっと。

2021年4月3日
iPhoneアプリから投稿

もー!
レイチェルワイズ演じる公爵夫人のセリフにビシビシきました!
女王陛下をアナグマと罵り、正直に罵る事こそが愛だと言う彼女が好きだわ〜!

一方、美しく強かな野心家のエマ・ストーン演ずる侍女。あの大きな美しい瞳と少し歪んだ口元がこの役にピッタリ。

ところどころ挟まれる裸の貴族の男にフルーツをぶつけるシーンや、娼館なども出しすぎない程よさがよかった。

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猫柴

5.0重要作

2020年12月19日
iPhoneアプリから投稿

キューブリックな広大な閉所で内側から蝿の如く腐敗するクローネンバーグな肉体。

汚物に大量の香水を振った如き腐臭漂う空間でそれ以上にそういう話が容赦無く進む。

露悪的でいてエレガントなザ・女優三人其々の代表作。

この手では20年に一本の重要作。

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きねまっきい