「強欲な女たち」女王陛下のお気に入り TSさんの映画レビュー(感想・評価)
強欲な女たち
映画は総合芸術であると誰が言ったか知らないが、この映画は、まさにその言葉がピッタリ当てはまるような作品ではないだろうか。
絢爛豪華とはちょっと違う、自然光と蝋燭の薄暗さのなかに英国王朝の歴史と美が浮き上がるような宮殿。ヨルゴス・ランティモス監督のことだから、セットもVFXも駆使して作り込んでいるのだろうが、地下廊下や下女の部屋など細部に至るまで手抜きがない。
音楽もクラシックのような音楽も流れる場面もあれば、工場の機械音のような不協和音が続く場面もあり、それぞれのシーンと登場人物の心理状態の表現に深みが出ている。
そして、広角の魚眼レンズで撮る女王の部屋や廊下。画面の両端の歪みは、これまた3人の心の歪み、言いようのない嫉妬、妬み、憎しみを表現しているかのよう。
富と絶対権力を持つ女王は、子を亡くし、病に冒され、愛に飢えている。しかし、女王としての誇りを持っている。
女王をバックに権勢を振るうサラは、その能力で国を動かす野望を持つが、女王あっての自分という限界の中でもがいている。
どん底から這い上がろうとするアビゲイルは、愛を知らず、富と権力のためには手段を選ばない。
3人の女たちは、愛を、権力を、富を、それぞれ求め、それぞれの檻の中から自由を求めて這い出ようとするが、出られない。映画のほとんどのシーンが宮殿内である。宮殿は彼女たちにとっての檻なのだ。
サラは、権力の座を追われ、国を追われる。彼女の捨て台詞が心に残る。
宮殿に残った女王とアビゲイルはこのあとどうなるのか。恐らく2人に幸せはないであろう。
一歩間違えば、とんでもない駄作になるかもしれないような題材を、ここまでのクオリティに高めた監督をはじめとする制作者、俳優陣にただただ脱帽する傑作。