「うさぎ」女王陛下のお気に入り Kiriko52さんの映画レビュー(感想・評価)
うさぎ
口コミで気になって見に行った。
サラが美しかった。
アン女王の母のようでにふるまい、父のようにふるまい、恋の相手であり、有能な部下。自分の思うように生きる女の、迷いない美しさ。鴨を撃つときの服装が似合うように、男性的な顔が似合う。執政が好きで社会的に有能である。女王に嫉妬するのは本心のようであり(その熱意はみていてぞわりとした)。一方、夫のこともいくらか愛しているようだ。
アビゲイルは、可愛い。顔がいくつも替わる。本心のわからない笑顔、一瞬の狡猾な表情、泣き顔、感情が抜け落ちたみたいな白い頬。花や音楽のように美しく、刹那的で、ときに真っ黒い銃のような横顔も見せる。綺麗に謎めいたエマ・ストーンだった。
彼女は登場してきたときからどこか不安そうである。心の底に、落ちる不安がある。サラは支配欲のかたまりのような人間だが、一方アビゲイルの賢さは寛容と親和性だ。周囲にあわせて自分を操れる。かんしゃくのひどい女王をみて、うさぎの檻をみて、その話をすることができる。子供を失った女王の話に、一瞬、心を寄り添わせることができる。サラは女王の子供にはなれないが、アビゲイルは無防備に、こどものように眠ることで女王の心を掴んだ。一方、彼女はじぶんの心も操る。従姉妹に嘘をつかないという愛やプライドを棄てれば、従姉妹を死ぬような目に合わせても、良心の呵責はない。彼女は誰も愛していない。自分の不安をぬぐうための、地位と金を得たい。敵はサラだ。そのための能力はあった。アビゲイルは見事に従姉妹を追い出した。
手紙にサラは強烈な愛を綴ったのか。女王の身を案じる言葉を綴ったのか。サラが女王からの手紙を棄てたことからサラが女王を愛していることは間違いがない。サラは手紙を読んで放心し、わずかな涙をこぼした。哄笑することもなく、読まずに火にくべることもできなかった。
ラストシーンで、彼女はうさぎをああした。物語は当然の結末を迎えたようにも思えた。彼女はうさぎに最初から愛はない。愛しているふりが上手になりすぎて、自分でも気づかなかったのかもしれないが。女王に愛もない。愛せない人間を愛していくことが今後の彼女に課せられている。彼女はこれからも、ずっとかわらず、不安で居続けるのだろう。うさぎの声がそれを教えてくれる。