「複数の視点でさらに掘り下げられた「この世界」。」この世界の(さらにいくつもの)片隅に yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
複数の視点でさらに掘り下げられた「この世界」。
片渕須直監督自身が述べているように、この作品は単に前作に30分追加した拡張版ではなく、ほぼ別の作品とも呼べるような内容になっています。
前作との最大の違いは、前作がすずさん中心だった物語であったのに対して、本作は周辺の人々、特にリンさんの視点が加わることで、より重層的な物語となっていることです。
彼女が深く物語に関与することで、すずさんと夫である北條周作さんとの関係が、単なる仲睦まじい若夫婦ではなく、非常に情念に満ちた関係であることが強調されます。同様に、北條家の人々のすずさんへの関わりに、前作では思いも寄らなかったほどの打算があったことが分かります。
こうした複数の視点から語られる物語は、終盤のある展開に収斂します。それは「無垢な自分」を含めて何もかも失っていったすずさんが行き着いた境地です。本作で最も印象的な場面ですが、前作以上にこの場面が胸に突き刺さる人も多いでしょう。同じ戦争を扱った作品である『ジョジョ・ラビット』が、最後まで無垢である事を失わないことと非常に対照的な展開となっています。今この時期だからこそ、本作と『ジョジョ・ラビット』を見較べてみると感慨深いかも知れません。
改めて劇場で観直してみると、映像だけでなく音響に大変な神経を使って作られた作品であることが実感できて、改めて片渕監督とスタッフの方々の熱意に心打たれました。この音響、そして本作で追加された新譜を体感できる点だけ取り上げても、十分劇場で観る価値のある作品です。
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