劇場公開日 2019年12月20日

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「すずさんの歌うような広島弁がいい」この世界の(さらにいくつもの)片隅に bionさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0すずさんの歌うような広島弁がいい

2020年1月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

美しいアニメーションとすずさんの歌うような広島弁に引き込まれてしまって、当時にタイムスリップしたのではと錯覚するような感覚だった。すずさんの描く絵がすごくいい。海を飛び跳ねるうさぎの絵は、頭の中にずーっと保存しておきたいね。

一番印象に残ったのは、すずのセリフではなく、玉音放送を聞いた後に小姑の桂子が言った「あー、終わった終わった」この一言が自分には一番響いた。戦争で家族を失い、家も失い、涙も枯れ果てたころに終戦の知らせを聞いて、憤りを通り越えて馬鹿馬鹿しくなったのだろう。桂子の心の中では、「あー、この馬鹿馬鹿しい戦争を始めたやつはどこのどいつなんだろうね。責任とって、腹でも掻っ捌いてんだろうね」と言っているんだと思う。

アメリカに戦争を仕掛けることの無謀さを大半の日本軍幹部が認識していた。にもかかわらず、売国奴と呼ばれることの恐怖に打ち勝つことができずに、ずるずると無謀な戦争に突き進んでいった。そういった時代の空気を桂子は、わかっていたんだろうね。

映画としては、168分の長さを全く感じない素晴らしい出来だった。何でもないエピソードが、最後には一つにつながっていく気持ちよさ。美しいアニメーション。市井で生きる人々の温かみ、力強さを感じた作品だった。

bion