「ほろ苦さとリンさんの優しさ」この世界の(さらにいくつもの)片隅に ケンチ930さんの映画レビュー(感想・評価)
ほろ苦さとリンさんの優しさ
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前作ではあえて省いたリンさんとのエピソードを盛り込んだ3時間の大作。ノーカット版は得てして冗長になりがちだけど、この作品は全く長さを感じさせない。それどころか、前作を繰り返し観たマニアで、ストーリー展開を熟知している層にも全く新しいテーマを提示してくれる。
リンさんと周作さんの再会シーンも描かれていたけど、その場面も含め、りんさんはすずさんに対して、一切周作さんとの関係を匂わせるそぶりもみせていない。知らん顔されたら嫌じゃろう、と述べたシーンに秘められたのだろうか。
プロフェッショナルに徹したその態度があればこそ、すずさんも周作への嫉妬心を消すことができたんだろう。原作では中巻44ページで示されたような、リンさんの心理描写を示すシーンは気づかなかった。
原爆投下後髪を切ったシーンや終戦の時の場面だけでは唐突だったけど、リンさんのエピソードが入ると、単にぼーっとしたキャラに思えた前作のすずさんの、実はうちに秘めた強さが説得的に伝わる。
代用品のことを考え過ぎたシーンは原作以上に描写がアダルトで、それも本作のほろ苦さを際立たせているなと。
原作に寄り添いながらさらに踏み込んだ傑作でした。
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