「もうひとつの片隅と、世界のその先の未来」この世界の(さらにいくつもの)片隅に ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
もうひとつの片隅と、世界のその先の未来
もうひとつの白木リンの長めのエピソードが加わって、物語の厚みが増したように感じる。
世界の片隅は、それぞれ、世界の中心でもある。
亡くなった人は戻ってこない。
ただ、悲しみを糧に、人は背中を押されて、生きていくのだ。
失った右手も戻ってこない。
でも、いつか左手が右手の代わりをするかもしれない。
リンこそが、すずの実家でスイカを盗み食いしていたあの子なのかもしれない。
それでも、逞しく生きていたリン。
でも、戦争は、そんなささやかな人の人生も奪い去ってしまった。
晴美も、哲も、兄もそうだ。
俳優の仲代達矢さんが、ずっと秘めていた戦争の苦い思い出を話していた。
東京の空襲で逃げ惑っていた時、小さい女の子が、怖くて道の端にうずくまっていて、仲代さんは、こんなところでうずくまっていたら、焼夷弾で死んでしまうと、その子の腕を取って、駆け出したのだそうだ。
その時、背後に焼夷弾が落ちて、それでも必死に走って走って。
ふと気がついて、後ろを振り返ったら、女の子は既にいなくなっていて、自分は、女の子の手だけを握り締めていたと。
仲代さんは、怖くなって、その手を放り出して、また、駆け出してしまった。
仲代さんは、せめて、その手だけでも持ち帰って供養してあげたかったと、戦後70年以上も後悔し続けていた。そして、戦争は絶対ダメだと固い信念を話していた。
その子にも未来があったのだ。
消えてしまったもうひとつの片隅の未来。
でも、世界は続いていく。
悲しみを超えていく。
ただ、戦争が未来を奪うようなことがあってはならない。
そんな程度のことは、僕達の、そして、世界のささやかな願いであって欲しい。