劇場公開日 2019年12月20日

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「完全版と呼ぶに相応しい。」この世界の(さらにいくつもの)片隅に キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5完全版と呼ぶに相応しい。

2019年12月21日
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…と言っても、「完全版」ってこれまで公開後にDVDを売るために作られた売り文句の場合が多かったが、これは違う。
前作の反響の多きさ・評価の高さ・興行的な成功はもちろん、クラウドファンディングなどで熱烈に支持されたその声に応えるため、前作で劇場公開のためにやむなくカットされた原作のエビソードが加わった、本当の完全版。

ここ数年で最も好きな映画の中の1本が前作「この世界の片隅に」。
劇場に何度も足を運び、DVDも購入。
そして3年の月日を経て、またあの作品が帰って来た。
それも、前作に散りばめられていた原作のピースが、シームレスに作品と繋がり、より大きくさらに厚みのある物語になって。

なんとなく言葉足らずだったり消化不良な感じのあったシーンも、ちゃんと補完されているし、すずさんの感情の動きもきめ細かく描かれている。

そして玉音放送の後の慟哭。
何回観ても私はここで感情が抑えられないのだが、今回は言葉もすずさんの気持ちがより捉えやすいように少しだけ改編されていて、今回も涙が溢れてしまった。

「生」も「死」も、決して劇的なモノではなく、日常の延長線上にある。
普通であること、その日常の大切さをすずさんの存在を通して教えてくれる。

人は独りではない。
どこかに必ず居場所があり、誰かと必ず繋がっている。

前作に比べてより分かりやすくなったことで、いわば「隙間が埋まった」「遊びがなくなった」様な気もするが、作品のメッセージが強く伝わる分、物語の基本線は同じなのに自分の中に新たな心の動きがあることに気づく。
そのくらい完成度は高い。

「昭和」の物語を「平成」から「令和」へと跨ぐ様に繋いだという意味でも、この作品の意義は大きく、その先の世代まで傑作として後世に語り継がれるのは間違いない。

キレンジャー