「粗削りだがエンタメに徹し切った快作」ダンスウィズミー みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
粗削りだがエンタメに徹し切った快作
荒唐無稽な設定だが、我々観客を楽しませようとする精神が全編に貫かれている作品である。心地良く鑑賞できる。観終わって清々しい余韻が残る。和製ミュージカルは馴染みがあまりないので、期待値はあまり高くなかったが、予想外の面白さだった。
主人公・鈴木静香(三吉彩花)は、希望する大企業に就職したが、やりたいことが見つからず悶々とした日々を送っていた。ある日、彼女は、音楽が流れ出すと勝手に歌い踊り出すという催眠術を掛けられてしまう。その日から、彼女は勝手に音楽に反応しまう自分に驚き、催眠術を掛けた催眠術師(宝田明)の行方を探す旅に出る・・・。
本来、ミュージカルの定番である、台詞の合間に、歌い踊り出すという手法を逆手に取った、常識を常識としない矢口監督の着眼点が素晴らしい。
ミュージカルなので音楽とダンスのシーンが多いのだが、聴き慣れた曲が多く、どのシーンも躍動感、力感に溢れていて、楽しい気分になれる。設定が突飛なだけに、主人公の激変が中途半端だと、作品が失速してしまうのだが、生真面目な雰囲気を持った三吉彩花の起用が効いている。主人公が音楽を聴くと、所構わず踊り歌い出し、主人公の雰囲気が一気にハイテンションになる。三吉彩花の、何の躊躇いもない成り切り度100%のキレキレのダンスと歌声、晴れやかな表情に魅入られてしまう。音楽とダンスの持つ力を堪能できる。
本作は、野暮は言わずに面白ければそれで良いと開き直った潔さが心地良い。しかし、それだけではない。しっかりポイントは押さえている。主人公が本当にやりたかったのは何なのかをラストシーンでさりげなく表現している。主人公の催眠術師探しの旅は、実は自分探しの旅である。旅での様々な出来事を通して、ようやく、主人公は自分の本心に気付く。
本作は、粗削りなコメディミュージカルではあるが、映画はエンターテイメントとして楽しむものであることを再認識させてくれる快作である。