劇場公開日 2019年8月16日

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「構造上の欠陥」ダンスウィズミー うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0構造上の欠陥

2022年10月22日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

非常に好感を持ちました。最後まで見たし。こういう映画は、たいてい途中で嫌気がさして見るのを辞めてしまうのに、それだけでも十分楽しめた証しになるでしょう。

主役の三吉彩花さんも、見事なダンスと歌を披露しています。それがまた、嫌味にならず、さりげなく生活感を残しつつキレッキレになる一歩手前の絶妙のさじ加減なので、好きになりました。地味な印象が勝つのは、実年齢のわりに大人だからでしょう。もっと童顔の、アイドル系の女優をキャスティングしなかったのは監督のこだわりでしょうか。

周囲の人物も、存在感たっぷりの設定で、居てもおかしくないキャラクターが絶妙に配置され、映画としてのバランスは非常によくできていると思います。

しかし残念ながら、どうしても譲れない「欠陥」がこの映画にはあり、それが多くの拒絶を食らう原因になっているようです。

映画の中でも重要なポイントとして取り上げられている「催眠術」。これは、非常に分かりやすくこの映画の構造をばらしてくれています。

つまり、ステージの上で、催眠に掛かってしまえば、こんな滑稽な状態を、本人は大まじめに演じてしまうんですよ。皆さんおかしいでしょ?どうぞ笑ってください。と、宣言してしまっている点です。その状態になれば、玉ねぎだってリンゴの味に変わるし、ミュージカルスターにだってなれちゃうんですよ。というネタバラシを何度も挟み込みながら、ミュージカルシーンを演じている鈴木が、素に戻った途端に大恥をかく設定におかしさを追求していることです。

レストランで大暴れするシーンも、はじめはスタイリッシュにバースデーソングを歌って踊る「演出」の一環だったのが、通報者によって撮影された動画では、ただ酔って狼藉を繰り広げる迷惑な女としか映らず、莫大な損害賠償を請求されます。

さらに、ここから映画は急展開し、ロードムービーに早変わり。ミュージカルの要素は一気に薄くなり、鈴木の「自分を取り戻す旅」を追いかける展開になってしまいます。結果は見てのお楽しみですが、魔法が、周囲を巻き込んで大騒動になる展開は、トム・ハンクスのコメディ『ビッグ』そして、それを下敷きにアメコミヒーローを登場させた『シャザム!』という映画がありますが、いずれも暗示による催眠術ではなく、本当に魔法にかかってしまい、それを解くのに四苦八苦するするストーリーです。

この『ダンス・ウィズ・ミー』では、指輪が光り、本当に魔法が効いている演出が施されています。にもかかわらず、ステージの下で笑っている(怒っている)観客を見せてしまうことで魔法が台無しです。一糸乱れぬ群舞もただの「迷惑行為」として描かれます。そのさまを安全な場所から見ている分には滑稽で笑えても、いざ目の前でやられると実害があると言っているのです。これはしらける。

三吉彩花さんのキャラクターも、深刻さが勝ってしまい、「かわいそう」な印象がつきまといます。もっと突き抜けて二面性を演じ分けられる女優さんだったら、笑えたのかもしれません。多分この映画は主人公が悲惨な目に合えば合うほど、面白くなる映画のはず。だったら、広瀬すずさんのような芯がしっかりしていながらアニメ声みたいな、生まれつきギャップがある人を採用して欲しかった。三吉さんは、悲しさとか、寂しさを上手に表現できるキャラクターではないかと思います。

最後に、ミュージカル映画に欠かせない、楽曲も魅力のひとつですが、どれも小粒で、「国産」にこだわったことでクオリティも下がってしまいました。演奏もそこそこ。ダンスの振り付けや仕掛けもそこそこ。「よく出来たミュージッククリップ」の域を出ていません。日常どこででもミュージカルシーンが始まるので、その発作的苦しみを笑う映画なのであれば、主人公は嘆きながら踊っているはずですし、周りも迷惑がっているはず。

どうせなら、オリジナル楽曲を作り込んで披露したほうが、予算も絞り込めただろうし、演奏のクオリティも向上したんではないでしょうか。

2020.5.29

うそつきカモメ