「アンチ設定で笑わせるものの、単調なオチは否めない。」ダンスウィズミー Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
アンチ設定で笑わせるものの、単調なオチは否めない。
邦画ミュージカルにあえて挑戦した心意気を買いたい。主演の三吉彩花が頑張っている。
映画マニアなら三吉彩花の出演作は、大泉洋主演の「グッモーエビアン!」(2012)など、ひとつぐらいは見ていると思うが、メジャー作品でも脇役がほとんど。雑誌「Seventeen」モデル出身の女優も挙げればキリがなく、今回の主役は異例の大抜擢である。
相当に努力を積んだであろう、彼女のダンスパフォーマンスは何ら遜色ない。それだけでも観る価値がある。
昭和ポップスを中心とした既存の曲を使っているという意味では、”ジュークボックスミュージカル”に分類。
幼いころの苦い経験からミュージカル嫌いとなった主人公が、遊園地の催眠術師ショーで、"曲が流れると歌って踊らずにいられない"という暗示にかかってしまう。
その暗示を解いてもらうために、地方巡業中の催眠術師を探して追いかける。行く先々で出会う人々といちいち踊る(笑)。若干、"ロードムービー"っぽくもある。
ポップなコメディタッチは矢口史靖監督らしい作品で、"ミュージカル嫌い"を主演にした"ミュージカル映画"というアンチ設定が笑いを生む。
序盤は手放しで笑えるのだが、だんだん苦しくなってくるのは、その設定以外にオチの要素がないから。
これまでの矢口史靖監督作品の共通点は、How To"(~のやり方)であったり、”All about”(~についてのすべて)が基本パターンになっている。
「スウィングガールズ」(2004)、「ハッピーフライト」(2008)、「ロボジー」(2012)、「サバイバルファミリー」(2017)...などなど。
いずれも普通の人が知らない経験や業界の"ヘェ~"が知的欲求を満たしてくれた。単なるギャップの笑いだけではないのだ。
ところが本作はミュージカルとしての成立に気がとられて、そこが足りないのが残念。
あやしい催眠術師役に、初代ゴジラ俳優の宝田明(85歳)をキャスティング。矢口監督は、以前もミッキー・カーチス(出演時73歳)を「ロボジー」で使っていたが、大ベテランを起用するセンスが面白い。
(2019/8/16/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)