「清々しい決断」おかえり、ブルゴーニュへ 佐分 利信さんの映画レビュー(感想・評価)
清々しい決断
現在、フランス語圏の監督で間違いのない作品を出しているのがセドリック・クラピッシュだ。
「スパニッシュ・アパートメント」のシリーズでは、グローバル化する世界を生きる若者を描いてきた。新しい世紀に入って20年が経とうとしている現在、世界は内向きな発想が支配的になってきており、あの連作で描いてきたグローバル化の状況が今となっては懐かしさすら感じれるほどに、過去のものとなりつつある。
そんなタイミングで撮られた彼の新作は、フランスの伝統産業であるワイン醸造を家業とする兄妹たちの物語だった。
一家のワイン造りが父の死によって存続の危機を迎えるが、兄妹たちの奮闘と理解によって再スタートを切る。そのさわやかな結末は、これまでの作品と同様、クラピッシュ映画お得意のラストシーンである。
ワインを作るということは、ブドウを育てることから始まる。他の多くの酒は、醸造所や蒸留所で使用する原料が別の土地から運ばれてくる。そこが、ワインと他の酒との決定的に異なる部分であり、ワインという果汁をアルコール発酵させた飲み物の味わいの多様性の元となっている。
極めて土着性の強い産品なので、そこに携わる人間が変われば、それだけで出来上がったものの味わいも変化する。そして、いったんそのブドウ畑や醸造所を解体してしまえば、復元することは不可能なのだ。
これまで、父親が守ってきたことの値打ちは、弁護士や不動産屋との会話で交わされる金額などでは、とても贖えないものであることを、長らくこの家を出奔していた長兄と共に観客は学ぶこととなる。
世界中を巡って、今ではオーストラリアの広大なブドウ畑でワインを作っている長兄が、フランスへ帰ることを決めた理由には個人的な事情もある。
しかし彼は、長らく守られ続けてきた大きな価値が、この地上から霧散してしまうことを止められるのは自分しかいないことに気付く。彼の決断が清々しく感じられるのは、その個人的な利益を超えたところに理由があるからに他ならない。