「数学も彼らの負け戦も、嘘偽り無く美しい」アルキメデスの大戦 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
数学も彼らの負け戦も、嘘偽り無く美しい
戦艦大和は悲劇の戦艦だ。
しかしその偉容は惚れ惚れするほどカッコいい。幾度となく映画などの題材になり、アニメになって宇宙へ飛び立ったり、今も尚日本人の心を魅了し続けているのも分かる。
間違いなく、世界最大、世界最高峰の戦艦だ。
だが、戦艦大和が建造された頃、戦争は艦隊戦から航空戦へ。図体ばかりデカイ大和は格好の標的。
劇中でも言われていた通り、無知な国民と好戦的な軍部に戦争に勝てると妄想を抱かせ、それと共に海の藻屑へ…。
果たして、戦艦大和は何の為に造られたのか…?
建造を巡って、軍上層部も意見が真っ二つに対立。
が、どうも賛成派に分がある。
空母より巨大戦艦の方が低い予算で造られるなんておかしい。
これには何かある。何かが…。
山本五十六の命により、一人の男がその隠された疑惑に迫る…。
建造の合否を決める最終会議までの2週間で、疑惑の予算の本当の予算を算出せよーーー。
今のようなスーパーコンピュータも無い時代、普通の人間の計算力では到底無理。普通の人間には。
帝大の数学科にかつて籍を置き、100年に一人と言われた数学の天才。
美しいものを見たら、計りたくてうずうずしてしょうがない、本人曰く“普通”の男。
櫂直(かい・ただし)。
山本五十六など周囲の登場人物が実在なので、彼も実在の人物と思いがちだが、完全なるフィクションの人物(と物語)。ちょいと調べてみたが、特にモデルとなった人物も居ないとか。
話も実話級にリアルで、櫂自身も本当は実在なんじゃないかと思うくらい面白味のある人物。
天才と変人は紙一重と言うが、まさに彼の事。
数学の事に関しては、本当に大天才。
人間コンピュータ並みの計算の早さ、難しい数式もスラスラ書き、説く。『イミテーション・ゲーム』でも思ったが、天才の考える事はよう分からん…。
その一方、先にも述べた通り、美しいものを無性に計りたがり、何でもかんでもすぐ計算しようとする。
奇人、変人、変わり者、或いは“数学バカ”か“数学キチ○イ”。
でも、ただの変人×天才ではない。
元々軍人ではない。ある理由から、軍人や戦争を心底嫌っている。
故に、軍規などに縛られない。
度胸があり、物怖じしない性格。
なかなか心に響く台詞も多い。
世の中に一人くらい、彼のような人物が居て然るべきと思わせる不思議な人間力。
数学で戦争を止めようとした男。
戦艦大和建造に反対した男。
それらと対しながらも、戦艦という“美しい怪物”には魅せられた男。
真っ当さとアンバランスのユニーク過ぎる人物像。
そんな人物を見事に演じ切れるのは、今の日本映画界の若手の中で、ただ一人しか居ない。
熱演の中にもユーモア滲ませ、難解な数学用語や計算式も披露、菅田将暉の演技力と存在感はもはや若手ではなくベテランの域だ。
他キャストでは、
最近コミカルな役所が多かった舘ひろしが、山本五十六役で久々に渋い魅力を発揮。
笑福亭鶴瓶、小林克也、國村隼、橋爪功、田中泯ら豪華ベテラン勢がそれぞれ好助演や憎々しい役回り。中でも田中泯は、ラストで一気に場をさらう。
助演キャストで特に良かったのは、柄本佑。
海軍少尉で、櫂のサポート役。
当初は軍を嫌う櫂に反発していたが、櫂の熱さ、直向きな真面目さに打たれ、彼に尽力する美味しい役所。我々観客目線でもある。
実生活でも親交あるという菅田と柄本のやり取りも絶妙。
どんなに周囲から怪訝の目で見られようとも、バカにされ笑われようとも、何かに没頭する人間の姿は美しい。
櫂の真剣な姿には胸熱くさせるものがあった。
それと対比して描かれるのが、軍部の醜さ。
圧力を掛け、妨害。
全ては軍の保身。
愚かで、古い考え方にがんじがらめに縛られた体制。
こんなだから、戦争に負けたのだ。
軍上層部のほんの一部の傲慢のせいで…。
主人公たちが対しているのが、同じ日本人、同じ軍内部というのが皮肉でならない。
本作は“机上の大戦”。
戦争映画でありながら、戦争シーンは冒頭だけ。(しかしこの戦艦大和沈没の冒頭シーン、本編・CG・セット・特撮を駆使し、山崎貴監督の手腕が光り、この冒頭シーンだけでも日本の技術の向上ぶりを改めて思わせてくれるほど迫力満点!)
話はずっと軍や数学用語含む会話劇で、ドンパチの戦争映画が見たい人には不満かもしれないが、
何の何の!
確かに専門用語は小難しいが、圧力に屈せず、突破口を見出だしていく主人公たちの闘いには、戦闘シーンを見ているよりずっとスリリングで興奮!
グイグイ引き込まれ、非常に面白かった。
クライマックスの最終会議は、ちょっと大袈裟な演出&熱演でもあるが、圧巻と白熱の一言に尽きる。
もはやここまで…と思いきや、
さながら『半沢直樹』のような、土壇場の大逆転!
こういうスカッとする勧善懲悪モノが好きな人には大満足の見応えだろう。
…しかし、最後の最後で思わぬ展開に。
絶対不利な負け戦に挑み、見事覆した!…筈だった。
戦艦大和の虚偽予算の理由。
ある人物の口から発せられた○○湾の言葉に、胸が苦しく…。
そして、戦艦大和建造の本当の狙い…。
かくして大和は建造され、日本は戦争に突入。
この“机上の大戦”は、端から負け戦にしか過ぎなかったのだ。
彼らの闘いは無駄だったのか…?
本当に数学には、世界を動かし、世界を変える力があるのだろうか…?
日本は負けた。戦争にも、各々抱いた偶像にも…。
が、信じ、抗い、変えようとした。
数学は正しく嘘偽りが無いように、彼らの闘いも。
日本の夏映画と言えば、ここ何年も主流となっているアニメーションと、かつて東宝で多く作られた戦記モノ。
夏に敗戦し、より一層戦争について考えさせされる時期でもある。
そんなメッセージ性を含みつつ、エンタメ性も充分。
毎度毎度、技術とレベルとクオリティーの高い作品を贈り続け、ヒット作や話題作が途切れない山崎貴監督とそのチームには、ちょっぴりジェラシーすら感じてしまうほど。
今夏も大ヒット作話題作続くが、現時点で今夏のベストだ。
近大さん
どうして⭐️5にならなかったのですか?
このレビューの文字数は相当な思い入れになった作品だと思ったのですが😅😅
私が書ききれなかった言葉がここに全てありましたよ😊
近大さん🙇大共感💕
私的には、今年一番の映画で…やはり映画って良いと心から思い直せた作品でした。…今年は見逃しばかりで、今頃後悔しておりますが…本作と「ゴジラ/キング・オブ・モンスターズ」を劇場で観れただけでも、幸せでした☺