「戦争を避けたい天才 VS 戦争したいバカ」アルキメデスの大戦 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争を避けたい天才 VS 戦争したいバカ
原作未読ですが、予告で見た戦艦大和の迫力と、そこに数学者が絡むストーリーが気になって、鑑賞してきました。そして、そのどちらの興味も十分に満足できる作品に仕上がっていました。
まずは、冒頭から惜しみなくVFX全開で描かれる大和に息を飲みました。時間にすればほんの数分だったかもしれませんが、超巨大戦艦大和の圧倒的なスケール、敵機の空爆や魚雷の破壊力、機銃掃射を受ける恐怖、その恐怖と戦いながらの対空射撃等、様々なものがリアルに描かれ、さすが山崎監督と思わせてくれます。中でも、猛攻を受けた大和が、回避行動をとることもままならず、左舷に大きく傾き、乗組員を海に振り落とし、船底を無様に晒し、弾薬への誘爆により天を突くような黒煙をあげて沈みゆくさまに、胸がしめつけられるようでした。リアルで緻密なCG が、戦闘の恐怖や戦争の愚かさを際立たせ、以降の展開へのスムーズな橋渡しになっていたと思います。
物語の中心として描かれるのは、海軍の次期建造艦をめぐる権力争いに巻き込まれた、一人の天才数学者の奮闘ぶりです。冒頭と打って変わって、映像的にはかなり地味なのですが、菅田将暉くんの演技とテンポのよさに支えられて、全く退屈することはありませんでした。櫂が与えられた課題に短期間でどのような解答を導き出すのかが気になり、最後まで飽きさせない展開が良かったです。しかも、その後さらに二転三転する展開がすばらしく、櫂の数学的な美の追求、山本五十六の内に秘めた戦略などの伏線を回収しつつ、冒頭のシーンへと回帰させる脚本は実にお見事でした。そして、それを陰で支えているのが、平山中将を演じる田中泯さんの重厚な演技です。真の主役は彼じゃないかと思えるほどでした。
ただ、少しだけ気になったのは、人物の気持ちの変化です。本作では、櫂少佐、田中少尉、大里社長の3人の気持ちが大きく変化します。田中少尉は出番が長いし、柄本佑さんの好演もあって、納得のいく変化でしたが、後の二人はいささか急変したような印象を受けました。考えを変えるきっかけはもちろん描かれていますが、欲を言えばもう少し丁寧に描かれていると、もっと共感して感情移入できたのではないかと思います。
それにしても、軍上層部が見栄とプライドと権力にこだわる、こんなにも愚かな人間ばかりだったとは…。日本が戦争に突入し大敗したのもうなずけます。こういった体質は現代の政府や企業にも通じるものを感じ、戦争で失われた多くの命を思うと、「本作はフィクションだから」と割り切ることはできません。本作を鑑賞して、終戦記念日を前に今一度戦争について考える機会を与えられた気がします。
当時の政府が愚かだったというのは、全てを知っている我々から見える視点であり、あの時あの時代の人達が本当に愚かだったかどうかを論ずるのは、意味が無いことだと思います。
我々は、二度と戦争をこちらから起こさない努力と吹っかけられたら決して負けてはならない為の全ての準備を普段からすれば良いのでは無いでしょうか。
戦前の戦争についての考え方は現在の我々が抱いているものとは全然違っていると思いますよ。太平洋戦争が終わるまで負けていなかったと言うことと、江戸時代にはサムライだった人がまだ存命で、主君のためには死をもいとわない考え方がまだ残っていたことなど、現代の我々が単純に考える戦争感とは大きく違ってると思います。
戦争の悲惨さを知っている我々とは根本的な考え方とは大きく違うものでしょう。
高官の人物造形は、史実ベースじゃないってことを理解しておきましょう。
それと太平洋戦争に至ったのは、外務省が役立たずで欧米列強という侵略国サロンからつまはじきにされてしまったのが大きいと思いますよ。