劇場公開日 2019年11月1日

  • 予告編を見る

「終わりの始まり」マチネの終わりに keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5終わりの始まり

2019年11月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

『マチネの終わりに』(2019年)

男は大人の振りをした少年であり、女は少女の振りをした大人である。
分別弁えた四十路の男と女の、驚くほど初心で不器用な恋愛模様、それは恰も思春期の少年と少女のような、一気に燃え盛る、理屈のないときめきと迸る恋愛感情が滾る、将にBoy Meets Girl ストーリーです。

芥川賞作家・平野啓一郎の原作小説を忠実になぞるかのように、本作は、明らかに映画に現れない第三者の語り部による三人称で描かれています。そのために寄せカットは殆どなく、引いた画が多いので、ラブストーリーにも関わらず主役の男にも女にも、どこか突き放した冷めた眼で距離を置いて客観視しているカメラ視座を感じます。
高名なギタリストと精力的な国際ジャーナリストという二人の恋愛は、東京、パリ、ニューヨークに跨り、如何にも都会的で洗練され瀟洒で洒脱な空気感を常に漂わせながらも、終始プラトニックに淡々と静かに進められます。

男を演じる福山雅治は専ら仰角カット、女を演じる石田ゆり子はやや俯瞰ショットで撮られているように、少年のような直向きさで、己に自惚れた男が主役の如く映ります。小気味よいカット割りでのテンポ良い展開によってスクリーンには惹きつけられますが、ドラマそのものにはリアリティーに欠けやや実感に乏しい浮揚感が靄のように覆います。
但し延々と続く過去のフラッシュバックというプロローグを経た、時制が現在になった途端に映像に血が通い始めます。男が舞台で演奏した狭義のマチネが終わった後に、この物語の本編が漸く始まります。いわば本作は、長年月に及ぶ男と女の愛憎劇という「マチネ」の終わりの始まりだったことが、観客には初めて明らかになるのです。
マンハッタンのセントラルパークからのBoy Re-Meets Girl“終わりの始まり”は、多分この物語の語り部も与り知らない未知の世界です。

第三者視点で描かれているゆえの、どこか牴牾しく訥々としたスジにも関わらず、最後まで観客の興味を掻き立てた大きな所以は、アコースティックギターによる哀愁を帯びた音色、その流麗に奏でられる耳に心地良く響くメロディとリズムによる、シークェンスの切れ目毎に流れる印象的なBGMのせいでしょう。

keithKH