「フランスを代表する大女優と、日本を代表する映画監督の夢のコラボ。 大仰なあらすじに真実はあるのか?」真実 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
フランスを代表する大女優と、日本を代表する映画監督の夢のコラボ。 大仰なあらすじに真実はあるのか?
ぎくしゃくした関係である国民的女優ファビエンヌと、脚本家である彼女の娘リュミール。
ファビエンヌとリュミールの確執と、次第に変化していく2人の心境を描いたヒューマン・ドラマ。
監督/脚本/編集は『海街diary』『万引き家族』の、日本が世界に誇る名匠・是枝裕和。
大女優ファビエンヌを演じるのは『シェルブールの雨傘』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の、レジェンド女優カトリーヌ・ドヌーヴ。
ファビエンヌの娘・リュミールを演じるのは、『GODZILLA ゴジラ』『ゴースト・イン・ザ・シェル』の、オスカー&世界三大映画祭を制したレジェンド女優ジュリエット・ビノシュ。
リュミールの夫・ハンクを演じるのは『ビフォア』シリーズや『ガタカ』のイーサン・ホーク。
本作で描かれるのは、「客観的な真実などは存在しない」という真実。
真実とは常に主観的なものであり、観測者の有様によって、事象は如何様にも姿形を変える。
そして、もう一つ。自分の記憶は真実にはなり得ない、という事。
記憶は現在に至るまでの過程で、観測した時とは別の形へとその姿を変えているからである。
大女優ではあるが性格が最悪な母・ファビエンヌ、そんな母親に嫌気が差してアメリカへと渡った娘、リュミール。
数年ぶりに帰省したリュミールが、久々にファビエンヌと共に時間を過ごす事で、見えていなかった…というよりは見ようとしなかった真実が顔を覗かせる、というのが本作のストーリー。
あらすじを読むと、本作は親子の間に隠された秘密を巡る、愛憎入り混じった驚愕のサスペンスなのだと勘違いしてしまうだろう。
実際自分もそういう映画なんだと思って観賞し始めたのだが、実際は全く違う。
拍子抜けするほどに軽やかなタッチで描かれた、ほとんどコメディと言っても良いほどに明るく爽やかな映画だった。
監督曰く、「読後感の重たい映画」が続いていたので、本作は意識的に明るい映画にしたのだそう。
ぶっちゃけ、なんでこれをわざわざフランスに行ってまで撮ったの?と言いたくなるほどカロリー低めの映画。
とはいえ、邦画特有の辛気臭さみたいな物が無い、誰にでもお勧めできる気楽で楽しい映画だった♪
一つ思ったのは、主演を務めるカトリーヌ・ドヌーヴに対する思い入れの大きさで、本作にノれるかどうかが分かれるかも知れない、ということ。
イーストウッドの『クライ・マッチョ』やスタローンの『クリード チャンプを継ぐ男』など、往年の大スターは、自分の置かれた境遇と映画の役どころがリンクするかのような作品を制作することがある。
本作も正しくそういう映画。国民的女優でありながら、業界的にはもう終わったロートルとして扱われがちなファビエンヌの姿は、やっぱり現在のカトリーヌ・ドヌーヴと被る。
名前だけしか登場しないものの、物語のキーパーソンとして確かに存在している女優の「サラ」。
若くして死んでしまったという親友かつ好敵手のサラ。
彼女の存在は、どうしても夭折したカトリーヌ・ドヌーヴの姉フランソワーズ・ドルレアックと、カトリーヌから恋人を奪った名女優ジェーン・フォンダを思い起こさせる(「政治やチャリティーに口を出す女優は、女優という仕事に負けたのよ」というセリフは、政治活動にアクティブなジェーン・フォンダを揶揄しているように聞こえるが…💦)。
サラの形見であるワンピースは、カトリーヌ・ドヌーヴが『昼顔』(1967)で着ていたワンピースがモデルだという話だし、やっぱりカトリーヌ=ファビエンヌとして観賞しちゃう。
カトリーヌ・ドヌーヴのファンであれば、本作の受け取り方も大きく変わってくるんだろう。
…ちなみに自分は『シェルブールの雨傘』すら観た事がない、全くのカトリーヌ・ドヌーヴ童貞なので、ファビエンヌのことを「嫌なババァだなぁ」としか思いませんでした😅
本作のタイトルである「真実」とは裏腹に、本作の登場人物は皆、何かしらの嘘をついている。
意図的に吐かれる「嘘」は、無意識のうちに信じ込んでいる「真実」の対であり、それと同時にその「嘘」すらも、「真実」の一部であると言えるのかも知れない。
ファビエンヌは、実はリュミールが出演していた『オズの魔法使』をこっそりと観劇していたことを告白する。
ここは確かに感動的な場面である。
しかし、本当にファビエンヌは『オズの魔法使』を観劇していたのだろうか?
ファビエンヌの発言が真実であるのか、それとも嘘であるのか、それはファビエンヌにしか分からない。
だが、この瞬間、リュミールにとっては母親が観に来てくれていたということが真実となった訳で、それが本当に起こった出来事なのかどうかはもはや問題ではない。
真実とは、主体がどう受け取るのかが全てであり、それが本当なのか嘘なのか、事実なのか虚構なのかは、ある意味では重要なことではないのだろう。
白状すると、本作が初の是枝作品。
今まで何となく気が進まなくて一本も観てこなかったが、遂に観賞することが出来た。
監督自身も言っているように、本作はとてもライトな作りの映画。
日仏合作という変化球だが、自分のような是枝初心者には、むしろこの作品は入り口として最適なのかも。
フランス語が分からなくて終始アホ顔なイーサン・ホークがとても可愛らしかった😆
ダメっぽくて冴えないけど、なんか愛されるオッさん。
自分もイーサン・ホークのようなスタンスで生きていこうと思った。
※本作の日本語吹き変えはかなりの珍品!
ジュリエット・ビノシュが宮崎あおい…🌀
いや確かに宮崎あおいは声優としても上手いけど、あの可愛らしい声とジュリエット・ビノシュの険しい顔はミスマッチ以外の何物でもない。
どうやら監督自らのご指名っぽいけど、合ってなさすぎてビビる。
そもそも、家族の中で英語とフランス語が入り混じっている状況というのも本作の一つの重要な要素なので、絶対に字幕版で観ることをおすすめします。
監督も出来れば字幕で観てほしいとインタビューで言っていました。…ならなんで宮崎あおいなんか選んだんだ?
たなかなかなかさん
こんにちは(^^)/
是枝監督のフランス作品
楽しめました。
>本作で描かれるのは、
「客観的な真実などは存在しない」という真実
>自分の記憶は真実にはなり得ない・・・
経験する時間的な経過で
形を変えるものなのなのかしら
サラは名前のみでしたね。
サラの形見であるワンピース
カトリーヌ・ドヌーヴが『昼顔』で
着ていたワンピースがモデルなんですね。
「昼顔」観ていなくてわからないけれど(^▽^;)
教えてくださり(´▽`)ありがとうございます。
「シェルブールの雨傘」は観ました。