「アート ~抽象世界と具体世界の狭間~」海獣の子供 Taracoゴハンさんの映画レビュー(感想・評価)
アート ~抽象世界と具体世界の狭間~
【一言でいうと】
「一番大切なことは言葉にならない。」という最後の台詞を大事にしたいですが、
敢えて一言でこの映画を表現するとしたら「アート」でしょう。
生命・宇宙の神秘を地球を舞台にして表現したアートだと感じました。
【原作、音楽について】
原作である五十嵐大介氏の「まずヴィジュアルありき」という作風を一貫して感じる
ことができたし、何よりも映像が美しい。音楽も言わずと知れた久石譲氏とあり、
場面に沿った演出は流石の一言。個人的にはクライマックスに向かう道中の音楽
テンポがコミカルに聞こえ、恐怖感よりも高揚感を表現したかったように感じました。
【分かりにくいについて】
確かに内容的には難しく感じることも多く、解明できていない事象も多いです。
しかし、作品を抽象画と同じような捉え方をしたら少しは心のモヤモヤも晴れるのでは?
そして、大切なことは言葉にならないし、出来ないからこそ、登場人物の発する
言葉は非常に重みを持っています。「宇宙と人は似ている」「この世のほとんどの
モノは見ることすらできない」この非常に抽象的な概念が具体的な海を舞台
として、また、人の行動として具象化されているところが奥深い。
登場人物の発する言葉に集中し、映像的な表現はぼんやりと、ああ、この映像は
こんなことを表現しているのかな?と、ON・OFFを使い分けて観てはどうでしょうか?
(だからこそ映像場面で眠くなるのかもしれませんが・・・笑)
【感じたこと】
この映画はメタ思考(抽象的思考)の大事さを強く感じさせてくれました。
抽象画に近い作品だからこそ、メタ思考が必要となります。
具体的な数値や結果を追い求めることは素晴らしいことですし、大切です。
しかし、逆の考え方もまた同じように大切だと思います。
具体的に起こっている事象をどう捉えるか?末端で起こっていることは、
大きな視点から見たら実はこんなことだった。
そしてそれは末端・全体に関わらず全く同じ動きであった。
このような大きさ視座から物事を見ることができます。
例えば、作品の本筋である生命の営み。
これは末端の生物も地球も同じ原理だったこと。
(地球については作者の創作でしょうが)
私自身が強く納得したのが、「歌」です。鯨の発する「歌」は地球の子守歌であり、
その子守歌は末端である人間の流花にまで伝承していた。
台詞としては出てこないものの、流花はそのことをしっかり体感したでしょう。
この映画で得られたこと。
それは、ものごとを具体的に捉え、抽象的に考えることの大事さ。
生命・宇宙の神秘を映画というアートで伝えてくれ、自身の五感に強い刺激を与えてくれました。
是非原作も読んでみたいと思います。