「作品崩壊」海獣の子供 sekaiさんの映画レビュー(感想・評価)
作品崩壊
以下、あくまで個人的な感想です。
この作品を、とても誤解している映画だと思いました。
映像と音楽だけでいいなら、ストーリーのないただのMVにすればよいと思います。
主題歌に「大切なことは言葉にならない」とありますが、
「大切なことは言葉にしない」の間違いではないでしょうか。
映画のエピローグで、琉花は「一番大切な約束は、言葉では交わさない。」と言っています。
この作品にとって、欠かすことのできないとても大切なセリフなのですが、映画を見ただけでは、意味が分かりずらいように思います。
原作のエピローグでは、大人になった琉花が、「”るか”にとってあの夏は”約束”だった。空、海、すべての時間と約束を交わした。私はその約束をずっと守るって決めた。
一番大切な約束は、言葉では交わさない。だから誰かに説明することもできないし、時にあいまいにしてしまいそうになる。でもいつでも体の一番奥でちゃんとつながっている。」と前後を補っています。
また、海が、声の出なくなるシーンでは、琉花は「言葉で話すと、言葉にならないことはないことになっちゃう。それは嫌。だったら言わない方がいい。でも黙ってても、いつもどうしたらいいか分からなくなる。」
(だから、クジラは思ってることがそのまま伝えられるなんて、すごいと思った。)とも言っています。
デデは、祭りのことについて「大切なことは、言葉なんかにしない方がいい。あの子(琉花)はそれが分かってるのさ。」と言っています。
そういう流れを踏まえると、映画のエピローグは、とてもちぐはぐに見えてしまいます。
琉花の髪が伸びていますが、これは時間の経過を示すと同時に、琉花は夏休みの後、ハンドボール部には戻らなかったことを暗示しているのではないでしょうか?
琉花が再び部活に戻るのは、原作にはない映画のオリジナルシーンですが、仲間に囲まれ、日常生活を送る中で、その夏のことを忘れていってしまえば、一番大切な約束を破ったことになってしまいます。
普通の人は、へその緒を切って「命を絶つ感触がした。」とは思いません。しかし、琉花はまだ高校生で、夏を共に仲良く過ごし、好きになっていた海と空との別れ(死)が心に強く残っていたから、
そう思ってしまったのではないかと思います。若い彼女にとっては、心に傷が残るほどショッキングな出来事だったのでしょう。
空も海も、ひと夏であっという間にいなくなり、目に見える周りには何も残っていないけれど、琉花の心にはとても鮮明に残ったものがある。彼女はそれを指針(コンパス)に一生生きていこうと心に誓った。
それは彼女ひとりの誓いではなく、空、海、すべての時間と、そういう約束を交わしたのだと思います。
「大切なことは言葉にならない」というのは、人間同士の場合であって、琉花が約束をした相手は、人間ではなく、この世界そのものなのですから
「(世界との)大切な約束には、言葉は使わない、必要がない。(ただその約束を信じ切り、守り切る自分の心さえあればいい。)」のではないでしょうか。
「一番大切な約束は、言葉では交わさない。」
言葉が人間同士のテレパシーであるなら、「言葉にしないこと」は、星同士のテレパシーだと言えるのではないでしょうか。
「人は乳房」
人間は、あってもなくても、どちらでもよいもの。
この物語の主人公は、琉花や海の子供たちではなく、宇宙に広がる世界そのものなのでしょう。