「言葉にできないけど何かわかったような、大きな物を伝えられたような感...」海獣の子供 ゆっこさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉にできないけど何かわかったような、大きな物を伝えられたような感...
言葉にできないけど何かわかったような、大きな物を伝えられたような感覚、でも本当は何もわかってないのかもしれない、そんな気持ちになる映画。
狭い世界でうまく息ができない、自分の気持ちをうまく伝えられない主人公が生命と宇宙の根源に触れる、遠く飛躍していくのがすごい。
見ていてなんとなく伝わる、昔思った懐かしい感覚を温度をもって思い出させてくれる感じがした。
小さい頃魔法が使えるような気がした無根拠の万能感、でも少し大人になっていくと窮屈になって自分が見えてきて苦しくなる無力感。
だから特別な何者かになりたくて、特別な海と空に惹かれたんだと思う。明確な理由はいらなくて、思春期の頃ならとても魅力的に見えるだろうなと思う。
雨の中走ると自分の呼吸が周りの音より大きく聞こえて、海の中と同じになるような感覚も。
両親が全然子供を守れてなくて介入できてなくて、無能感がすごい。でも子供の頃って生活力とかは置いておいて、子供の世界に大人は要らなかったよなって思う。大人は全然わからないから言いたくないこと、友達との中でだけの世界がたくさんあった。だからいいんだ。
人と宇宙は同じ。昔授業で原子レベルで考えるとそうらしいみたいなことを習ったのを思い出した。
母が歌ってくれた子守唄は自分の中に眠っていて、その唄もさらに母から伝えられたもので、そうして生命は繋がっていく。
自分がたくさん忘れているその中に、ふと刺激されたら呼び起こされる感情や記憶がたくさん眠っていて、普段は全然意識してなくて感じとれなくて、でもたしかに有るんだと思う。
それは消えてしまった海と空もで、世界は繋がっていて、そういう大きな根源に触れたから主人公はもう大丈夫なんだと思う。
ものすごく感覚的に大切なものを教えられた、何かを追体験したような感覚。
でもよくわからなくて言葉にできないことこそがこの映画そのものなんだろうなと思う。
あと米津玄師の曲のサビが海の中みたいな音してて、もうさすがやな…!って感じ…また新しい概念生み出されましたって感じ…
すべてを理解できなくても良いのだと思います、大きなものを受け取ったと心にとどめておくだけでも。ヒトだけが優位だと思いこんだ人が多い社会に対し、エコーロケーションで会話する鯨やイルカをはじめ他の生物の方がヒトより優れた能力を持つといえる面もあると示唆し、ヒトも他の生物や宇宙も同じ物質でできている事、まだ人には解明できない自然現象がたくさんある事、自分は無知なのだと思い知る(ソクラテスの言う無知の知)を知っただけでも。いつかわかるかも知れない。そもそも誰も知らない宇宙の起源をも描いているのだから、理解できなくても当然とも言えます。そのイメージを映像にして見せてもらえただけでもこの映画の価値があると思います。