劇場公開日 2019年6月7日

「考えるな!感じろ!by原作ファン」海獣の子供 Yukkiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0考えるな!感じろ!by原作ファン

2019年6月7日
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鑑賞方法:映画館

興奮

難しい

もともと五十嵐大介先生の作品群、及び遥か昔に読んだ当映画原作の「海獣の子供」のファンだったので、見終わった後に脳汁大量放出する気満々で映画館に赴いたのですが思った程感動しませんでした。それでも原作ファンの贔屓目から、やや甘めの点数をつけています。

【良かった点】
・ビジュアル
原作のボールペン絵柄が再現されつつ非常に繊細にキャラクターが動きます。雨や風に海の匂い、キャラクターの感じる恐怖や戸惑いをアニメーションで伝えようとするアニメーターの気迫が伝わってくるような映像美。イマジネーション豊かな五十嵐ワールドが、より強烈に右脳を刺激する美麗かつ壮大な動画になっていました。映像の持つ情報量の多さにはただただ圧倒されます。海洋生物の目力の強いこと強いこと。そして鯨のシーンは圧巻。

・エンディング
米津玄師の「海の幽霊」は最高。

【悪かった点】
・ストーリー
複雑かつ難解な物語が、映画の縮尺に合わせた省略によりさらに難解で抽象的になってました。映画だけみると壮大なセックスの話っぽく見えなくもないですが、原作はもっと文化人類学的な雰囲気漂う話です。

尺の関係とは言え、琉花の母親の秘密、ジムとアングラードの過去、海と空の幼少期などが省略されていたのは残念でした。異界としての海と、その異界に選ばれたある種シャーマン的な人間の苦悩、選ばれなかった人間の悲哀。ある言葉に対してその言葉が規定する意味ではなく言葉の音が持つ波長からイメージを感じるという感覚について。宇宙と生命やら、世界に散らばる神話と未観測の現象の関連性やら、あの世とこの世やらなんやら、哲学的で精神的な数々の問いを前半に提示し、後半の畳み掛けるような神話的な物語でもって解答しようとしたのが「海獣の子供」...だった気がするので原作読んでください。違ったらすみません。

・CG
CGが少し画面から浮いている時がありました。

【総評】
アミニズム・シャーマニズム的要素を多分に含んだ原作が、映画化にあたって少女の一夏の成長譚として再調整された作品...なんだと思うんですが、リアル少女はこの映画をみてどう感じるのか気になるところです。ただ、映画を見終わった後に、貴方と私も、人と宇宙も、宇宙と海も、海と子宮も、子宮とあの世も、本質的には同じなのかもしれないなあなんて事を考えたくなります。

Yukki