劇場公開日 2019年6月28日

「白石和彌、あるいはその優しさについて」凪待ち つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 白石和彌、あるいはその優しさについて

2025年11月20日
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鑑賞方法:DVD/BD

良い映画だったと思うけど、白石監督作品の中ではマイルドで、良く言えば「優しい」、悪く言えば「パンチが弱い」ように感じた。

白石作品と言えば季節関係なくダラダラ汗が流れ出るような、喉が干からびるようなヒリつきを覚えるような、濃ゆ~い画面圧力に翻弄される映画(個人の感想です)。
「凶悪」「ひとよ」「孤狼の血」「世界で一番悪い奴ら」と観てきて(観た順)、きっと監督は「孤狼の血」のガミさんみたいな感じに違いないと思っていた。
「映画撮るけぇ、気合い入れんかい!」とか言って、どこで売ってるのかも不明な謎柄のジャケットとか着て、咥え煙草で、サングラスで、助監督が直立不動で立ってて、みたいな。

オファーを受ける俳優さん達もどうやらそう思うらしく、「凶悪」とかの白石作品を事前に観て「やべぇオファー受けちゃったよ!」とビビるらしいが、出てきたご本人はなんかシャレオツで優しそうなおっさんらしい。
マジか、と思って検索すると確かに清潔感と知的な印象のある、帽子の似合うおしゃれなおっさんであった。マジか。

検索した時に読んだインタビューからも、「野性味溢れる男気」というよりは「思慮深く一本筋の通った男気」みたいな印象を受けた。
何よりも、テーマと一人の人間を掘り下げる行為に、妥協のない作り手としての本気を感じる監督だな、と思う。

作品の骨太さからは想像もつかない繊細さ。慎重で緻密なテーマ設定と作品作り。
白石監督のこの面が色濃く出たのが今作「凪待ち」なんだな、と納得した。
確かに香取慎吾演じる主人公・郁男はしょーもない男ですよ。表面だけ見たらギャンブル狂いでヒモで、朴訥なのに気が短い。身体がデカいから物理的に恐怖を感じるしね。
ダメな男がダメなりに何とか生きてるんだけど、ダメになってる理由があるからダメなのであって、助けてもらっても絶望しても、急にビシッとマトモにはなれないよね。

簡単には前向きにならない(なれない)、急に真面目にはならない(なれない)、でもダメなヤツだって傷ついて、悔しくて、どーしよーもない自分を嫌ったり嘆いたりしている。
人間は完璧な存在じゃないから、ダメな部分に共感して好きになる、ってこともある。ダメなところがあるから、安心できることもある。
「悪い」とされていることも、見方や考え方を変えれば「良い」影響だってある。
そして一回とことんまでダメになった後、ゆっくりと自分のペースで立ち上がって行く。
それを出来る限り真摯に、慎重に、虚実織り混ぜて伝えようとする姿勢は、白石監督の作品の根底に必ず流れている。

まあ、最初にも書いたけど、「凪待ち」は緻密で優しい映画で、良い映画なんだけど。でも思ってたより優しすぎて、何だか肩透かしを食らった印象はある。
そして何より、もっとヒリつくような映画が観たい!という私の好みとちょっとすれ違ったかなぁ。

つとみ
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