「本当にヤバい奴は被害者なのでは?」凪待ち LQさんの映画レビュー(感想・評価)
本当にヤバい奴は被害者なのでは?
これだけのクズ男がなぜ愛されるのか全く伝わってこなかった。情はわかるが何年も一緒に辛抱強く愛し続けられる程の男だろうか。
郁男には平凡な、一般人の誰もが持つレベルの優しさこそあるが、人格的にも人間的にも魅力がない。
従って強いて理由付けを行うと元国民的アイドルグループ並みのルックスを持っているからというメタ的な答えしか見つからない。
次に亜弓は絞殺されたとあるが、そこに至るまでの犯人の憎しみが描かれておらず迷宮入りである。ヘアサロンを開店した際に祝い花を持って来ていたが、亜弓はほとんど取り合わずあしらっていた。過去に気を持たせるような事をして金を出させたのではないか。今はもう違うという意思表示だったのではないか。
元夫はDV男と称されていたが新妻には優しく出産時には感動に涙し亜弓サイドで認識されている悪い男という演出は一切なかった。口論時の台詞にもあった通り、亜弓固有の問題があったのではないか。
また亜弓の子供に対する一方的な決めつけや感情的な行動にも問題を感じたのは視聴者の共通認識だろう。
最後に、犯人はパナマのサンブラス諸島について言及するが、この島は亜弓と郁男の色恋の象徴だった。郁男はその島の名前を忘れていたが犯人は「俺はちゃんと覚えている。お前よりももっと深い関係を持っていた」と言わんばかりの態度だった。
この映画のテーマは“喪失と再生”だが、津波で亡くなった人達がそうであるように失ったものは絶対に元に戻らない。
では再生とは何か。この映画から希望が見えるようなポジティブなものは感じ取れただろうか。あれだけ反省と後悔に涙したにも関わらず、結局本質は変わらずに依存症を“再発”するリアリティの方がしっくりくる。
後味の悪い映画だ。