劇場公開日 2019年6月28日

「単純なサスペンス映画ではない」凪待ち andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0単純なサスペンス映画ではない

2019年6月17日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

Filmarks試写会にて。
「俺はどうしようもないろくでなしです」
と香取慎吾演じる郁男は言う。確かに彼はろくでなしだ。しかし「どうしようもない」ところに主眼がある。立ち直りたい、真っ当に生きたいのにどうしてもうまくいかないギャンブル依存症の性。競輪を前に、画面は傾き、謎の風が吹き、香取慎吾の昏い目が光る。どうやっても抜け出せない沼。
彼が恋人とその娘と、震災の爪痕が未だ残る石巻に移住して話は展開していく。病気、震災、被災者へのいじめ、狭い地方都市、ヤクザ、ノミ行為。物語はひたすら救いのない方向に転がってゆくが、登場人物皆、どうしようもないながらも愛が、情がある。どれだけ主人公が自暴自棄になろうと、どうにかして救おうと手を差し伸べる人物がおり、そしてそれに、どうしようもなさを抱えながらも応えようとする主人公が居る。どれだけの救いかは分からないが、この展開には涙が止まらなかった。
監督本人も話していたけれど、サスペンス要素は濃くない。犯人探し気分の映画だと思うと肩透かしを食らうし、背景の謎解きもない。基本的に説明は少ない映画なのだ。けれど、人の業を、衝動を、救いを描き切っていると感じた。
多分日本一型にはまりやすい役ばかり与えられてきた香取慎吾だけれど(孫悟空とかハットリくんとか両津勘吉とか...)抑制の効いた「どうしようもないろくでなし」の演技は素晴らしかった。助演も皆素晴らしい。白石組と言っていいリリー・フランキーに音尾琢真、身体中で物語る吉澤健、恒松祐里の鋭さと儚さ、西田尚美の現実感。皆役が立っていた。これは良い映画。

andhyphen