「タブーを超えるもの」ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
タブーを超えるもの
「自分のやりたいことは、全部、ピカソがやってしまった」 ペギー・グッゲンハイムに見いだされたポロックのセリフです。でも、今やポロックの作品は世界で最も高額なものの一つになっています。モダニズムやシュルレアリスムに道を開き、ポロックのような芸術家を見出し、おそらく、アール・ブリュットにも活力を与える芸術の胎動となったと言っても過言ではない、ペギー・グッゲンハイムの功績は、言葉で表現することが難しいようにも思えます。ペギー・グッゲンハイムは、ひたすら自分の内なる美意識や作品と向き合い、既成のタブーを超えて、新たな波に芸術性を見出そうとしました。僕たちは今、●●コレクションといった、事業家で且つ芸術愛好家の収集した作品に触れることができます。ただ、既成の名声や評判も影響し、多くのコレクションは、ジャンルを超えた幅広いものになっていて、ペギー・グッゲンハイムのコレックションが、如何に濃密で凛としたポリシーのようなものに貫かれているかに驚かされます。批判の絶えなかったポロックの作品は、芸術とは何かといった哲学的な論争を一部では巻き起こし、コマーシャリズムや宗教の宣伝といった目的を内包するものはロー・アートだとする、それまでの芸術を批判する動きにもつながりました。レオナルドダヴィンチではモナ・リザ以外が、ミケランジェロではロンダニーニのピエタ以外がもしかしてローアートになってしまうのかと思うと、少し寂しい気になりますが、論争は論争です。芸術の既成概念が変化・拡大し、僕たちの心を揺り動かすような作品に出合えることは、刺激的で素敵なことです。個人的には、文章では読んだことがあったのですが、地べたに置いたキャンバスをグルグル回りながら色付けしていく、ポロックの制作風景を映画で観ることができて興味深かったです。