「伝えることの大切さ」劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
伝えることの大切さ
待ちに待った劇場版。こうして、大スクリーンで再会できただけでも満足なのですが、期待を上回る完成度にさらに大満足です。京都アニメーションのみなさまに心から感謝申し上げます。テレビシリーズから2年、外伝公開から1年、久しぶりのヴァイオレット・エヴァーガーデンですが、そのブランクを感じさせることなく、開幕と同時にやさしく作品世界に誘ってくれました。
観る者をあたたかく包み込むような、京アニらしい美しくてやわらかい絵づくりは、本作でも大きな魅力を放っています。風景においては、緻密に描きこまれた背景に、差す光や吹く風まで実際に感じられそうなほど描かれ、外国の街並みなのにどこか懐かしさや安らぎを覚えるほどです。また、人物においては、瞳の輝き、指先の微細な動きまで丁寧に描写し、その心情を察するのに言葉も表情も必要ないほどでした。そこへ、石川由依さん、浪川大輔さんら実力派声優陣が命を吹き込み、その世界はさらにいきいきと色づきます。絵と演技が一体となって作り出す作品世界に、このままずっと浸り続けていたいと思うほどでした。
そして、本作において何より圧巻だったのは、そのストーリー。電話の発明により手紙の需要が下がり、ドールがその存在意義を失いかけた時代に、一人の少女が見つけた手紙をきっかけに、ドールが活躍していた時代へと話を移します。この冒頭の展開が、作品世界と登場人物の過去や関係性を理解させる役割を担っており、初見の方にもやさしい入りとなっています。そしてこれが、物語全体を貫く伏線にもなっているのがすばらしかったです。
その後、病床のユリスがヴァイオレットに手紙を依頼し、これがその後の展開の中心に据えられます。そこに、ヴァイオレットはもちろん、ギルベルト、ディートフリート、ホッジンズ等の主要人物を巧みに絡め、テレビシリーズの内容を踏まえて、それぞれの秘めた思いを丁寧に描いていきます。もう、あふれる涙をこらえきれませんでした。
さらに、電話の普及による手紙の衰退という、現代にも通じる社会変化を背景として加え、そのどちらの手段にもよさがあることを描きます。これだけの内容を盛り込みつつ、無理なく無駄なく淀みなく展開する脚本は、本当に秀逸です。いったいどれほどの時間をかけて練り上げたのでしょう。まさにヴァイオレット完結編として、非の打ちどころのない完成度です。
以前、外伝のレビューで「手紙には手紙だけがもつあたたかさがある」というようなことを書きました。その思いは変わりませんが、本作を観て、もっともっと大切なことに気づかされました。それは、形はどうあれ、想いを相手に伝えることの大切さです。どんなに美しく大切な想いも、言わなければ、書かなければ、表さなければ、届きません。逆にいえば、届けられるのなら方法はなんでもいいのです。本当に大切な想いと、それを伝えたい人がいるというだけで、実は幸せなのかもしれません。
ヴァイオレットのおかげで、「あいしてる」の意味と伝えたい相手が、今までより少し広がったような気がします。そして、本作は、アニメーションという形で、京アニのみなさんから観客へ贈られた「あいしてる」のメッセージだったような気がします。すばらしい作品を届けてくださり本当にありがとうございます。京アニのみなさん、あいしてる!
レビュー読ませて頂きました。うんうん、うんうん、とうなずきながら納得の評価でした。おじゃるさんもとても素敵な方なのでしょうね。文章を読んでそう感じました。劇場版、素晴らしい作品でしたね。