「嬉しくて嬉しくて言葉にできない。」劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン momoさんの映画レビュー(感想・評価)
嬉しくて嬉しくて言葉にできない。
本当に嬉しい時、人はその感情を言葉に出来ないものだ。
まさに、小田和正が作ったオフコースの有名な曲の歌詞のような事が起きる。
あれだけ自在に手紙では言葉を紡ぐことができるヴァイオレットが、言葉にできなかった、あの瞬間。彼女が言おうとした言葉はなんだったのだろう。
「アイシテル」を返したい所だがそこをグッと押えたところがたまらない。
普段はあれだけ冷静沈着なヴァイオレットが海に飛び込んだ瞬間、息を飲んだ。
少年ユリスにしても少佐にしても、得てして男というものは、自分のやつした姿は大切な人にだけは見せたくはないという男の美学のようなものを携えて意地を張ってしまいがちな生き物だ。
しかし、深い絆で結ばれた友達や、「アイシテル」存在の前においてはそんなつまらないプライドは捨ててしまった方がいい。
少佐の兄の大佐だってそうだ。軍人としての威厳とか親への反抗から悪ぶってカッコつけてるけど、素直になった方がいい。
少佐の帽子を自分のものだと嘘をついてヴァイオレットにあげなかったし、いつの間にか弟の元へ駆けつけていたところからすると、本当はツンデレな可愛いやつじゃないか。
祖母に手紙を書いたという縁で、ヴァイオレットの住んだ町を訪問する少女は、時代を超えて、ヴァイオレットというドールがいた事が後世の人達にも影響を与え続けていることを印象づけてくれる。
観客はこの少女の目線で、その地で少佐と暮らしたヴァイオレットの暮らしや生き様について思いを馳せることが出来るだろう。
語りすぎず想像力の余地を残してある所が素晴らしい。
日本が世界に誇れるアニメーションで、またひとつ金字塔的な作品が生まれたと思う。
新型コロナウィルスの影響で劇場での公開も危ぶまれ、公開が決まっても延期に次ぐ延期だったが、やっと公開できて良かった。
オープニングとエンディングの部分は流れる画面に仕掛けがある。
家でDVDで観たり、劇場の後列で俯瞰して観ていたら気が付かない人間の視覚の錯覚を利用した仕掛けだ。
前から3列目位までの席に座ると、スクリーンに吸い込まれるように、劇場の椅子が上昇して行くような錯覚を体感することが出来る。
雨はあたかも自分の上から降ってきて、花火は真上に上がっているようにも感じられる。
普段は後列で映画を観る人もぜひこの感覚を前の方で体感してみてほしい。
映像がずば抜けて美しい作品だけに、作品の世界観の中により没入できることになるだろう。
エンドロールに流れていく名前を目で追いかけながら、この作品に携わりながらも、完成した作品を劇場で観ることが叶わなかった京都アニメーションのクリエーターの方々のことを思うと涙が止まらなくなった。
ご冥福をお祈りし、心の中で手を合わせていた。
そしてエンドロールが終わった瞬間のことだ。
劇場は拍手に包まれた。
この瞬間の、会場が一体となり感動を分かちあった瞬間のことは忘れられない思い出となるだろう。
公開初日の出来事だが、きっと全国各地のたくさんの映画館でも同じように拍手が巻き起こったに違いないと思いを馳せた。