「息を飲む沈黙の長回し」劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン ryuさんの映画レビュー(感想・評価)
息を飲む沈黙の長回し
非常に丁寧に創られた作品でした。作画はもちろん、演出、音楽に至るまで、細かく丁寧に、丁寧に作られていました。
特に、心臓を掴まれたのが、ヴァイオレットが、少佐を思い出すシーン。 音楽、効果音なし 無音で、気が遠くなるくらい長い時間、夜自室で佇むヴァイオレットの後ろ姿観るとき、館内は静まりかえり、息をするのもためらわれるくらいでした。
他にも随所に、空白の間を折り込み、深い深い悲しみの闇を穏やかな調子で描くことに成功したと思います。
もちろん最後に青空は来るのですが、それでも、作品全体には、静かな悲しみが漂い、事件を経て、深く傷つき、悲しみにくれ、それでも復活していく様が現実のこの世界以上に描かれていました。
テレビアニメシリーズを観ていない人がどれほど楽しめるかはわかりませんが、ストーリーに、丁寧に時間の経過やヴァイオレットの人柄などを説明するエピソードが自然に盛り込まれていたので、初見の方でも、楽しめるのではないかと思います。
海外での視聴も意識して制作されているので、世界各国の人々も目にする機会があると思いますが、この沈黙の演出がどのように評価されるのか、興味があります。
新海先生の場合は、映像表現でガンガン語りかける部分があるのですが、この作品は、引き算と静止と沈黙で、自分の内面に向き合うように仕向けられている気がします。
リズと青い鳥もそうでしたが、空白を活かす、京都アニメーションの少女マンガ的な演出は、情報過多で詰め込みまくる作品とは違った余韻が味わえます。
テレビ版の原画も流用しているのもあり、この作品にも携わっていた池田先生のお名前がスクリーンに出てきたときには別の涙を禁じえませんでした。
それぞれ、作品の携わった人のことは、ヴァイオレットの手紙のように、後世に伝えたいと思います。