「子連れ狼 冥府魔道。 デル・トロさん、あなたそんなに人情派でしたっけ…?」ボーダーライン ソルジャーズ・デイ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
子連れ狼 冥府魔道。 デル・トロさん、あなたそんなに人情派でしたっけ…?
アメリカ=メキシコ国境で繰り広げられる麻薬戦争を描くクライム・サスペンス『ボーダーライン』シリーズの第2作。
アメリカ国内で、イスラム過激派による自爆テロが発生。犯人グループの入国にメキシコ麻薬カルテルが絡んでいると踏んだアメリカ政府は、CIA職員のマットにカルテル殲滅作戦の指揮を任せる。マットは戦友アレハンドロを呼び寄せ、メキシコ国内を内戦状態に陥れるためのとある作戦を実行するのだが…。
脚本はテイラー・シェリダン。
○キャスト
アレハンドロ・ギリック…ベニチオ・デル・トロ。
マット・グレイヴァー…ジョシュ・ブローリン。
脚本家テイラー・シェリダンの名を世に知らしめた傑作『ボーダーライン』(2015)の続編。
主人公(と言っていいのかどうかは微妙だが…)ケイトを演じたエミリー・ブラントは残念ながら降板、殺し屋アレハンドロとCIA職員マットの2人に焦点を絞った物語が展開される。まあ前作のエンディングを考えればケイトが登場しないというのは当然なのだが、エミリー・ブラントを失った事で映画から華やかさが消えたのは否定しがたい事実。そのせいで、続編でありながらなんかスピンオフみたいな手触りの作品になってしまっているような気がする。
本作の主眼は麻薬ではなく不法移民。
クスリよりもヒトの方がコストが掛からず儲けがデカい!原価ゼロで大儲け!!🤑…うーん、なんとも胸糞の悪くなるようなビジネスだが、これが現在のアメリカ=メキシコを取り巻く現実なのだろう。トランプ政権下における不法移民の取り締まり強化が、新たな犯罪ビジネスの温床になってしまっているというのは何とも皮肉な話である。
イスラム過激派組織、ソマリアの海賊、メキシコ麻薬カルテル、そしてアメリカ連邦政府。一見無関係に見える世界各地の犯罪組織が、実は一つの線で結び付いている。
暴力と犯罪の連鎖が冒頭から容赦なく描かれるが、それはこの世界が不安定な調和と均衡の上に成り立っている事をまざまざと示している。風が吹けば飛んでいくほどに脆い仮初の安寧を享受する我々の目を覚ますような憎悪と混沌。善悪のボーダーが存在しない戦争の実態。救いのないハードでスリリングな駆け引きによる緊張感は、麻薬王の娘を誘拐するという非道な行いにより頂点に達する!
…とまぁ、娘を誘拐するあたりまでは確かに面白かったものの、正直言ってそこがピーク。あとはどんどん盛り下がっていく。景気の良い爆発や銃撃戦も中盤のvsメキシコ警察を最後に影を潜めてしまい、あとはなんだか地味な展開が続く。あまりに地味なので途中で予算が無くなったのかと訝しんでしまったほどである。尻上がりに面白くなっていった前作とは真逆。個人的には映画は終わり良ければ全て良しだと思うのだが…。
監督はドゥニ・ヴィルヌーヴからステファノ・ソリマに交代。ドゥニは『ブレードランナー 2049』(2017)の撮影の為に監督を降りてしまい、その時撮影監督のロジャー・ディーキンス等、近しいスタッフを皆んな引っ張っていっちゃったので、本作はガラッと作り手を変えざるを得なくなったらしい。
そんな途中加入のソリマ監督に対し、古参メンバーであるデル・トロやブローリンはガンガン意見を出し、アレハンドロやマットのキャラクターを柔軟に変更していったとのこと。多分そのせいだと思うんだけど、前作と比べて今作のこの2人って以上に人間臭いんですよね。前作では何考えてるのか全然わからんやべー奴らだったのに、今作ではうっすらヒーロー感すら漂っている。というか、アレハンドロに至っては普通にヒーローになっちゃってるやんけ!!
今作のヒロインであるイザベルは、アレハンドロにとっては殺したいほど憎い相手の娘。そんな彼女を守るのか否か、当然そんなアンビバレントな感情がアレハンドロを悩ませた筈…なのだが、割と何の迷いもなく彼女を保護する為に危険な橋を渡る。えっ!あんたそんなキャラクターだったっけ?確か前作では麻薬王を一家もろともぶっ殺してたような気がするのだが…。
冒頭、あえて子供が自爆テロの被害に合うという描写を入れたのは、後半のアレハンドロの英雄的行いとの対比を狙ってのことなのだろう。アレハンドロは殺し屋だが、子供を無差別に巻き込むテロリストとは違うぞ、という事を示したかったのだろうが、そのオッサン前作では普通に子供も殺してたし。急にそんなモラリストヅラを前面に押し出されてもねぇ…。
あとあの「急所は外れた」展開。なにあれ!?そんな都合の良い…。ほっぺたならセーフって、花山薫かお前はっ!!💦
前作は紛う事なき傑作だが、本作は正直ガッカリ続編。海賊だのISだのが登場する上「メキシコに内戦を巻き起こす!」とか息巻いてたから、さぞや凄い事になると思っていたのに…。
これ、完全な蛇足だと思います。残念ながら評価は出来ない。第3作目の構想もあるようだが、ドゥニを招集出来ないのであれば作らない方が良いんじゃないかな…。
本作の感じ、なんかに似てると思ったらあれだ。『ジャック・リーチャー』シリーズの第2作目(2016)だ。
あれも血の繋がらない女の子を守って、オジさんが四苦八苦する映画だった。んで、なかなかの駄作だった。
中年ハードボイルドヒーローは、シリーズが進むと女の子を保護しながらの逃亡劇を繰り広げがち。それで成功したのは『LOGAN/ローガン』(2017)くらいしかないんだから!そんなんやめとけやめとけ!!