「時計は巻き戻せないけど」ルイスと不思議の時計 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
時計は巻き戻せないけど
1973年発行の児童文学小説『壁のなかの時計』を映画化した、
ほんのちょっぴりホラーなファンタジー作品が登場。
舞台は1955年のアメリカ・ミシガン州。両親を事故で失った少年ルイスは
叔父のジョナサンに引き取られたが、ジョナサンと彼の屋敷には秘密があった。
ジョナサンは、屋敷に隠された危険な魔法仕掛けの時計を探していたのだ……。
毎度ながらの原作未読で恐縮だが、原作は計12作品が発表された人気シリーズだそうな。
とはいえ『ハリー・ポッター』のような大スケールのファンタジーではないが、
小スケールと呼ぶよりは、なんというか、こう、ギュッ!と詰め込んだ感じ。
ファニーなキャラやギミックが子ども心に楽しく、一方で大人の心にも
訴えかけるシリアスなテーマも裏に感じられる出来だったと思います。
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映画が始まっていきなり楽しいのが、
J・ブラック演じるジョナサンとK・ブランシェット演じるツィマーマン夫人の
夫婦漫才! 毛むくじゃらだの紫ババアだのお互い言いたい放題である。
夫人の微笑みながらの「死んじまえ」には思わず吹き出した
(吹替版を観たが、佐藤二朗も宮沢りえも本業じゃないのに割と達者ね)。
『ケンカするほど仲が良い』なんて言うけれど、この2人も腐れ縁。
つらい気持ちを抱えながらお互い支え合っている事が後半で分かってくる。
そして奇天烈な魔法屋敷と魔法の数々!
かわいい忠犬イス公、素行不良の生け垣ライオン、気まぐれステンドグラス、
奇怪人形軍団、星舞う庭園にアタック・オブ・ザ・キラー・パンプキン!
主人公ルイスがジョナサンから魔法を習う流れもワクワクするし、
事件の黒幕と対決する終盤もホラーチックだがなんだかユーモラス。
『アダムスファミリー』や『ビートルジュース』っぽいねえ。
ジョナサンは最後まで楽しく三枚目なナイスガイだし、ルイスの編み出す
ハイテンション魔法にもニヤリ。傘マシンガンをブッ放すツィマーマンは
徹頭徹尾クール!(つくづくK・ブランシェットって男前だと思います)
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主人公たちは周囲から変人扱いされてばかりだけど、
「ナッツ(イカレた人)が入ってるからクッキーは美味しいのよ」
の台詞通り、はぐれものへの愛情を感じる物語になっている点も良い。
また、全体的には子ども向けな雰囲気だが、序盤で張った伏線をキレイに回収する
流れや、端々に見え隠れする暗くシリアスな面は決して子ども騙しではない。
後半、友達欲しさに悪手ばかりを打つルイスには正直言って苛立ったが、
彼が本当に欲しかったものを吐露するシーンでそこにも少し納得できた。
ルイスは死に別れた両親、ジョナサンは喧嘩別れした家族を忘れられず、
ツィマーマンや事件の黒幕は戦争で負った心の傷に今も苦しんでいる。
誰も彼もがつらい過去を抱えていて、その過去と各々がどう向き合うか、
前へ進むのか後ろへ進むのか、が大きな要素になっていると感じた。
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不満点。
キャラもギミックもぽんぽん飛び出す前半は文句無しに楽しいしユニークとも感じたが、
中盤~終盤手前までで停滞感があり、そこから勢いが落ちてしまったように思えた。
肝心のクライマックスも「そんなんでいいの!?」と心配になる
くらいにアッサリとした解決を迎えるので、そこも残念だったな。
それとルイスの夢に出てくるあの女性は……全然夢っぽく登場しない
ので、序盤から怪しさ満点だったなあ。気付かれちゃうよと。
あとね、あの悪友くん(政治家タイプ)。単なるいじめっ子とは違う
面白いキャラだったが、決着の付け方はステレオタイプだったので残念。
「ゴーグル外せよ」という言葉は、多少はルイスを気遣っての言葉
だった気もするので(ダサい奴の近くにいたくないというだけかもだが)、
彼にはもう少し気の利いた決着を用意してあげてもよかった気がする。
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とまあ、前半の勢いを維持できなかった印象はあるのだけれど、中身は練り込まれてるし、
全編に散りばめられたユーモアもクラシックホラーな味付けも楽しめる作品でした。
3.0~3.5判定で迷ったが、ちょい厳しめの3.0判定で。
<2018/10/28鑑賞>
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余談:
監督は『デス・ウィッシュ』が公開中のイーライ・ロス!
『ホステル』『キャビンフィーバー』などのエグい映画で知られる彼
なのでちょっと心配したが、こんな優しい映画も作れるとはねえ。
いじめっ子よ、命拾いしたな……(どんな最期を想像していたのか)。
レトロな映画やTVへの愛情とかもひしひし伝わる出来でしたね。
ちなみに劇中の白黒TV番組で金庫破りやってたのは監督本人です。
公開当時、いやいや絶対ファンタジーのふりした殺戮系だって😱と疑心暗鬼したまま終了してしまいました(笑)ちゃんとゴリゴリのファンタジーでしたね。相変わらず奥様(ロレンツォ)が出演されてますが、公開2か月前くらいにご離婚されていたので、今後はイーライ監督作品に出ないんでしょうか。