「これからも歌い続けるくちびる」さよならくちびる 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
これからも歌い続けるくちびる
題材や設定、話的にはありふれた青春音楽ロードムービー。が、複雑で繊細、ほろ苦くも染み入り、魅せられた。
ハルとレオ。2人組女性ユニット“ハルレオ”。
インディーズ界で注目を浴び、ファンも人気もあるが、解散を決める。
これから7都市を廻る解散ツアーに出発するのだが…、
顔を合わせたくもなければ、口も利きたくない。開幕早々、険悪ムード。
トイレに立ち寄ったガソスタで、レオは見ず知らずの男の車に乗って行っちゃうし…。
一応ライヴには間に合って戻ってきたけど…、
こんなんで大丈夫なの、ラスト・ツアー…?
一体、解散を決めた2人に何があったのか…?
道中並行して、出会いやこれまでが挿入される。
工場勤務中に出会った2人。
音楽に誘ったのは、ハル。
ハルがレオにギターを教え、2人で練習したり、一緒にハル手作りのカレーライスを食べたり…。
他愛ないけど、積み重ねていく。
真面目なハル、フランクなレオ。
作詞作曲担当で才があるハル、歌が上手くファン人気があるレオ。
次いでに、タバコ派のハル、ビール派のレオ。
性格や感性、好きなものなど全く同じではなく、寧ろ真逆ながら、それはそれでバランスが取れていたように思える。
なのに、何故…?
音楽性の違い…ではないようだ。
一方に人気が偏っての嫉妬…でもないようだ。
となると…
ローディでもありマネージャーでもあり、2人を支えるシマ。
女2人に男1人。
レオはシマに、シマはハルに、ハルは…のお察しの通りの三角関係なのだが、単純に一人の男を巡って仲が拗れた感じではない。もしそうなら、一応プロとしても失格、ファンにとっても幻滅、「バカで何が悪い」と言うが、バカだ。
シマの存在も大きいが、言ってみりゃさざなみのようなもの。
もっと、複雑なもの…。
ハルとレオのデュオや友情を超えた関係。
劇中では、ハルがレオに特別な感情を抱いているように見える。
が、レオだってハルに…。
お互い、本当は心底大事で大切な存在。
もし本当に解散して別の相手と組んでもこれ以上居ないってくらいの存在。
大事で大切だから。
時にそれは、ずっと良好な関係のままで居られない。
寧ろ、気持ちがすれ違う。
伝えたくても、伝えられない。
言葉に出してなんて、言えやしない。
ただ一つ。この歌に乗せて…。
複雑な感情に揺れ動かされ続け、じゃあ何の為に歌ってる?…とも思うが、だから歌っているのだ。
この関係性は素直に分かり得るものではないが、当事者たち、実際に今組んでいるデュオなら、あるあるや共感する点も多いのでは…?
それらを体現したハル=門脇麦とレオ=小松菜奈。
2人の好演と魅力。
個人的に好きな女優2人の共演。
これだけでも!
とにかく2人のナチュラルなやり取り、複雑な感情、関係、距離感、間合い…全てが見事!絶妙!
猛練習したであろうギター演奏やデュエット披露。劇中の“ハルレオ”名義でCDもリリース。
本当に2人に魅せられる。
成田凌も好助演。
時に2人の関係に余波を立て、振り回されながらも、2人を支える。
スパイス的な美味しい役回り。
単なる若手イケメンではなく、何故彼が今売れっ子なのか、納得。
楽曲提供は、秦基博とあいみょん。
自分はあまり音楽を聴く方ではないが、それでもこの2人の楽曲参加がスゲー事は分かる。今屈指の人気とも言えるシンガー2人。何てスゲー贅沢…。
楽曲の素晴らしさは言うまでもなく。日本アカデミーなど国内の映画賞に主題歌賞があったら、間違いなく受賞だろう。本作の為に新設して欲しいくらい。
単に2人が提供した楽曲がいいのではない。きっとこの2人も、ハルレオの姿に感銘や共感を受けたからこそ、楽曲も素晴らしいのだ。
メジャーではビミョーな作品が多いが、本作のようなインディーズは上質。
オリジナル脚本による塩田明彦監督の手腕も上々。
感動的なラスト・ライヴを終え、遂にツアーもハルレオも…。
ラストは想像出来たかもしれない。
一度は決めた解散。
でもこのツアーで、また一緒に思いを込めて歌って…。
優柔不断で未熟で、バカのままでいい。
だけど、“さよならくちびる”なんて言いたくない。
これからも、“よろしくくちびる”“ありがとうくちびる”と歌い続けたい。
2人の歌は続く。