「豪華なPVと考えれば、とてつもなく贅沢。」さよならくちびる Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
豪華なPVと考えれば、とてつもなく贅沢。
本作は、アコースティックギターを抱えた、インディーズシーンでは人気の女性デュオ、"ハルレオ"の解散ライブハウスツアーを描いたロードムービーである。
とはいっても、"ハルレオ"は劇中の架空デュオで、女優の小松菜奈(レオ)と門脇麦(ハル) の2人がアーティストとして実際に演奏し、歌う。
周りを飲み込む独特の存在感を放出する門脇麦は、こういう主役が似合う。歌手役は、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(2017)のセリ役で主題曲「REBORN」をライブシーンで歌い上げている。ミュージカル舞台「私は真悟」でW主演の高畑充希とともに公演実績があり、歌唱にはなんの不安もない。
一方の小松菜奈の歌声は、初出しに近い。TV-CM"乳酸菌ショコラ"(ロッテ)で、共演の吉田羊とリズムフレーズを口ずさんでいたというのがあるが、どれほど歌えるかは未知数。
そんな2人が作り出す、"ハルレオ"はよくできている。こんなインディーズデュオ本当にいそう。そこにローディー兼マネージャーの青年シマ(成田凌)も絡んで、3人の一方通行な三角関係が影響している。"男→女→女→男"というループだ。
冒頭から移動用のバンに乗り込んだ、空中分解寸前のチームが、"これで最後"の解散ツアーに出発する。
塩田明彦監督が原案・脚本も担当した完全オリジナルであるが、劇中歌もオリジナル。楽曲を、秦基博やあいみょんが書き下ろしているところが本作最大の魅力となる。
音楽映画にいちばん大切なのは、"楽曲"のクオリティだ。そういう意味で本作は、"脚本"と"演出"に寄り添うように"楽曲"がバランスした、センスのいい作品だ。
アコギ(アコースティック・ギター)ということで、タイトル曲でもある「さよならくちびる」は秦基博プロデュース。文句のつけようのないテッパンコラボなのだが、まずもってアコギの女優デュオが設定されているのは、"あいみょんの楽曲"ありきのような気もする。
仮に"あいみょん"が映画のオファーを断った場合、ライブシーンで"ハルレオ"が演奏する「たちまち嵐」や、「誰にだって訳がある」は、他の楽曲で替えが効かないほどハマっている。たった2曲、されど2曲。
青春音楽映画には佳作が多い。はかない夢や恋愛の一途さが、楽曲との相乗効果で感動を倍増させる。
本作は我々が、あいみょんという才能と同時代にいる幸福を享受できる作品ともいえる。
"楽曲"のクオリティがいちばん大事とはいったものの、本作は"楽曲"と2大女優のパフォーマンスに頼りすぎている。
シンプルなストーリーといえば聞こえがいいが、"インディーズあるある"みたいなエピソードは単純で、芸がない。楽曲に負けないストーリーかというと、登場人物の音楽に対する熱い想いはいまいち伝わらず、かといって同性愛に踏み込んでもいないし、恋愛の行方は何にも見えないまま終わる。というか始まってもいない。もっと何か新鮮な答えが欲しい。
ちなみにアコギということで、イメージがダブるのは、ジョン・カーニー監督の3部作である。
比較に出すには、完成度が違いすぎるのだが、「ONCE ダブリンの街角で」(2007)、「はじまりのうた BEGIN AGAIN」(2015)、「シング・ストリート 未来へのうた」(2016)といった青春音楽映画の空気感が好みならば、それなりに楽しめる。
楽曲のために作られた、豪華なPVと考えれば、とてつもなく贅沢。
(2019/6/1/TOHOシネマズ日比谷/ビスタ)