「斬る男、斬らせる女」斬、 しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
斬る男、斬らせる女
本作、80分とさほど長くないのが非常に効果的。
絞り込んだテーマと舞台設定で、タイトルのごとく切れ味鋭く見せてくれる。ピンと張り詰めた短編小説のようである。
時代劇だが、テーマは現代的。ゆえに登場人物は「私」「君」など、舞台の江戸末期にはあり得ない言葉を使う。
塚本監督らしい手ぶれカメラに、大きな音の効果音が被さる。剣を抜く音、空気を切り裂く男、そして人を斬る音などが容赦なく耳に入ってきて、よくは見えなくても、また、目をそらしたとしても、殺気が伝わってくる。
浪人の杢之進(池松壮亮)は農家に居候しつつ食い扶持をつないでいる。時は幕末。江戸に出て、漠然と活躍することを夢見ている。農家の息子の市助は武士の杢之進に憧れ、木刀で剣の稽古を付けてもらっている。市助の姉のゆう(蒼井優)は杢之進に想いを寄せている。
ある日、腕の立つ剣士の澤村が村にやってくる。彼は京に上ろうとしており、仲間を探していた。そして、澤村は杢之進と市助を仲間に誘う。
その頃、村には、ならず者の集団が流れ着く。
ゆうはたびたび杢之進に「死ぬの?」と尋ねる。彼への想いゆえである。弟に対しても、澤村といっしょに行かないでほしいと願っている。
ところが彼女は、両親と弟をならず者達に殺された途端に、杢之進に「仇を取りに行け」と強く迫る。
蒼井優、「彼女がその名を知らない鳥たち」に続いて、女のダメなところをダメダメに演じていて見事だ。観る者が男でも女でも嫌悪感を覚える行動なのに、「自分が彼女の立場だったら、こうしちゃうんだろうなあ」と思える説得力ある演技を見せている。
杢之進は真剣を嫌い、ならず者たちとの闘いでも木刀を使う。
ところが、本人が望まないにも関わらず、最後には真剣での決闘に追い込まれて行く。
女は剣を持たない。しかし、男を闘いに向かわせる。
望まないのに闘いに巻き込まれていく、という構図は昨今のネット世論なども想起させ、不気味である。