「鋼(はがね)な感じ」斬、 CBさんの映画レビュー(感想・評価)
鋼(はがね)な感じ
シュールな映画だった。
徳川幕府がいよいよ終わろうかという時代に、農村に用心棒的に雇われている腕の立つ浪人のまわりに起きる出来事の話。
主人公は、剣の腕に見所がある農家の青年と毎日のように修業をしながら、農作業にも参加して暮らしていた。
人を斬る修業を毎日続け腕は確かなものになったが、なぜ人を斬るのかがわからないままでいる主人公。
そこに現れる2つの存在。ひとつは、ならず者集団、もうひとつは、幕府の一大事に、腕の立つ者を集めて江戸へ馳せ参じようという、凄腕の浪人。
さまざまなことがあって、ラストで人を斬ることができた主人公は、この後どうなったのか、誰にもわからないまま映画は終わる。「人を斬る」とは一体なにか? 主人公と同じ苦悩に観客である我々も巻き込まれていく。
緊張感を強いる大きめの音楽や効果音。そして何にもまして、真剣が鞘から抜かれた瞬間から、チリチリと鳴る金属音。構えただけで音がするはずはないのだが、この音が「人を斬るための、剣」という存在をはっきり意識させる。すごいセンス。
おびえる村人に、ならず者達の退治を期待されるも、彼らの懐に入って酒を酌み交わして交流を果たし、村人たちに「彼らも真から悪い奴らではない。だから、依頼されたら、農作業を手伝わせてやってほしい」と伝える。現代人である我々から見れば、それ自体は心優しい、美しい活動に見えるのだが、主人公自身は、"人を斬れない自分" が不面目極まりない様子。時代というのは、難しいものだ。
塚本監督の「鉄男」を未だに見ていない。今回の映画を見て、監督の鉄への思いを感じると、やはり「鉄男」を見ずにこの監督は語れないように思う。
自分が若き頃に公開され、当時の情報誌「シティロード」を中心に、「鉄男を見ずに映画を語るな」的なカルト人気を築いていたのはダテではなかったのだな。