劇場公開日 2018年11月24日

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「暗喩の意味合いが解らず、小難しい印象の作品でした。」斬、 HALU6700さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5暗喩の意味合いが解らず、小難しい印象の作品でした。

2018年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

難しい

時代劇好きな父親を誘って、ミニシアターの京都シネマで鑑賞。

映画を鑑賞後、作品の意図する意味合いがイマイチよく理解出来なかったので、映画秘宝などでの塚本晋也監督のインタビュー記事を拝読しますと、監督自身の初の時代劇映画という事で、あのレイテ島戦記を描く『野火』と地続きの、今作は「非暴力」を主題にした「人を斬れない武士」である幕末期の浪人・都築杢之進役に池松壮亮さんを主演に迎えての反戦を描いた時代劇作品との事でした。

一般的な、所謂、痛快時代劇とは全く異なる、ある種、時代劇の体裁を衣にした反戦映画なのでしょうが、なにぶんと事前情報を全く容れずに鑑賞に臨んだ事もあり、各配役や映画自体の暗喩の意味合いがイマイチ理解出来ぬまま鑑賞していましたので、途中までは、「暴力の連鎖の無意味さ」を説く主人公の言葉や、その「人を斬れない武士」という存在からも、暗喩の意味合いは、<自衛隊の存在意義>を主題にしているのかと思って鑑賞していましたが、それとは全く真逆な意味合いとして、右傾化しつつある現政権に対して警鐘を鳴らす意味合いを込めた反戦映画の様でした。

開国に揺れる幕府のために有能な武士を探して旅していた澤村次郎左衛門(塚本晋也さん)に、村の若者で、ゆうの弟・市助(前田隆成さん)との木刀を使った稽古中にその腕前を見込まれて、江戸に向かう組の一人として引き入れられた、主人公の浪人・都築杢之進(池松壮亮さん)でしたが、源田瀬左衛門(中村達也さん)率いる無頼派の浪人集団が巣食う洞窟へと仇討ちに向かうまでは格好良かったのですが、いざ戦う段になると真剣を使わずに傍にあった棒っ切れで戦い、徹底した「非暴力」で臨み、恋心を抱く村娘・ゆう(蒼井優さん)さえも彼らに陵辱され性的暴行を受けている状況でもなお、杢之進は何もする事が出来ないのでした。

一般的な時代劇の筋書きの定石では、こういった難しい状況・局面を打破し克服することでドラマチックな展開を生むのですが、時代劇を彩る仇討ちの場面ですら『斬、』では徹底的にこの「非暴力」という状況を貫き通す辺りは、それを克服することが容易であればヒーロー然とするのでしょうが、安易に、それが克服出来ないことを描く事でなお、絶望的にも近い右傾化に向かいつつある今の時代の危険性に警鐘を鳴らしているのかも知れないですね。

そして、また、映画自体は冒頭の刀鍛治のシーンから始まり、日本刀の真剣が鞘から抜かれる際に放つ音など、その重量感溢れる刀の音にこだわる塚本晋也監督だけあってダイナミックな音響や劇伴に呼応するかの様な演出は迫力があって凄かったのですし、剣豪の澤村次郎左衛門を演じるに辺り、あの北辰一刀流に長らく志願して稽古を積んだらしい塚本晋也監督の殺陣の演技も素晴らしかったです。
殺陣を美しく魅せるカメラワークは、全体像を撮さないだとかブレがあったりとイマイチ惜しまれる点もあった様な気もしましたが、初の時代劇映画としてはなかなか良かったとは思いました。

ただ、ストーリー展開の上で、あまりにも「非暴力」に対する暗喩にこだわるが故に、山奥への逃避行動という形でのラストへの着地点があまりにも不自然な締め方で尻切れトンボ的な感が否めず、主題たる「非暴力」との肝心の答えを残さぬまま、観客にその答えを委ねて丸投げしたままになっているのが、どうにも勿体なかったですね。

また、所謂、一般的なありきたりなヒーロー然とした勧善懲悪型の痛快時代劇とは一線を画す時代劇であり、主題の「非暴力」を暗喩とした反戦映画である点を知らずして観に行くと、完全に呆気にとられてしまう作品でしたので、全く白紙の状態で観るのではなく、事前に映画のチラシなどで簡単な事前情報を知っておいた方が良い部類の映画かも知れないですね。

私的な評価としましては、
塚本晋也監督による、徹底したメッセージ性の濃い「暴力の連鎖の無意味さ」や「非暴力」といった暗喩が込められた反戦映画であるが故に、一般的な痛快時代劇に観られるようなエンタメ性に乏しい点で、そもそも商業的な娯楽映画としては成り立たない作り。

その上に、肝心要の主題たる「非暴力」という訴求点が、ラストの着地点があまりにも不自然な締め方で尻切れトンボ的にぼやけてしまった感が否めず、確固たる答えを提示しないまま観客にその答えを丸投げしたままになっていた点も非常に勿体なかったでした。

理想としてはラストの着地点としては、やや説教臭くなるかも知れないですが、恋心を抱いていた村娘ゆう(蒼井優さん)と、再度、向き合って「非暴力」の在り方の帰結としての答えを語るシーンが欲しかったですね。

従いまして、私が当初この作品の持つ暗喩の意味合いを全く理解出来なかった事を以て低評価にするつもりは毛頭ありませんが、非常に勿体ない幕切れだったりした点や、あえてなのか訴求点が安易には理解し難い構造の時代劇映画になっていた点などを勘案しまして、五つ星評価的には★3つ半くらいの評価が相応しい作品かと思いました次第です。

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HALU