「矛盾だらけの時代劇」斬、 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
矛盾だらけの時代劇
何と恐ろしい映画だろうか。冒頭の木刀での激しい稽古と勇ましいまでの音楽に一抹の高揚感を覚えてしまったのであれば最後。映画が終わる頃には切られた腕から流れ出る血のように、その高揚感はドボドボと音を立てて流れ落ちるに違いない。何故ならこの作品、時代劇の最大の見せ場であろうチャンバラシーンさえもいとも容易く斬りつけるからである。
矛盾しているように聞こえるだろうか。いや、事実本作は矛盾だらけだ。人を斬るために稽古をする。しかし人を斬ることはできない。人を守るために剣を抜く。しかし人を守ることなどできない。では何のために稽古をするのか?何のために刀を持つのか?
尽きぬ恨み、晴らせぬ思い、やがてそれらが報復の連鎖となって身に降りかかる。自分にだけではない、家族、愛する人、村の人々、果てには己の精神さえもその刃は斬りつけていく。その怖さ、その恐ろしさは何たるものか。ラストシーンは決して後味の良いものではない。しかし、血に染まってしまったその手を洗うことなどできない。たとえそれが自分が斬った相手の血であろうと、斬られて流れた己の血であろうと…。
深い森の中を彷徨う主人公のように、私もこの作品に溢れる矛盾だらけの疑問の答をまだ見つけられていない。
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