「斬れない苦悩をシンプルかつ力強く描く」斬、 エロくそチキンさんの映画レビュー(感想・評価)
斬れない苦悩をシンプルかつ力強く描く
塚本晋也監督の初の時代劇とのこと。幕末の農村を舞台に江戸から京へ出てひと花咲かせようとする二人の浪人を描く。
池松壮亮演じる若き浪人は、物腰が柔らかく、用心棒の体で農家に溶け込み、武術は達者だが「人を斬ること」に激しい抵抗がある。塚本晋也演じる壮年の浪人は「人を斬ること」に何の抵抗もない。
塚本との対峙を通じ、人を斬れない池松の苦悩をシンプルに描く。そして池松に想いを寄せる農家の娘(蒼井優)が彼らのすべてを見届ける。
激動の時代にいながら、その中心から遠く離れ、近づくことができない焦燥をもしっかりとらえた。
力強くもピュアで美しい作品。そのシンプルさゆえに物足りなさを感じる方もいると思うが、私は好きだ。
【追記】
上映後に塚本監督の舞台挨拶があった。時代劇との出会いは市川崑監督の「股旅」だったとのこと。黒澤明や小林正樹の作品がもつ様式美とは一線を画す、このカジュアルかつニューウェーブなATG作品が記憶の底にあったのだろう。
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