「ドラゴ親子の破滅の美学」クリード 炎の宿敵 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
ドラゴ親子の破滅の美学
メインのファイトシーンだけで、充分楽しめる。
ビル・コンティのメロディーが挿入されるタイミングでウルウルきた。
ロッキーシリーズは「3」以降、少年漫画的な“乗り”で新たな敵と戦ってきた。
その最強の敵が「4」のイワン・ドラゴで、人気も高い。
「5」「ファイナル」は、年齢面からロッキーが戦線離脱した後の物語なので、
ロッキーが一番強かった時の一番の強敵としてドラゴが神格化したのではないだろうか。
「クリード」は、新たな主人公で正当な続編を作り上げる良いアイディアで、見事な世代交代だ。
しかも、少年漫画度は増している。
ストーリー展開は、まぁ、読めてしまう。というより、ストーリーなんてないに等しい。
製作側は「贅肉」と判断したのかもしれないが、ドラマ部分が大胆に削ぎ落とされていて、強敵と闘って如何に勝つかだけに集約されている。
正に少年漫画。
ライバル登場から決戦までがトントン進む。
主人公の周囲の人間はロッキーを含めて、心情を丁寧に扱ってもらえない。
ロッキーシリーズはそこまでドラマを軽視してなかったと思うが。
(記憶が薄れているので、見直してみよう)
唯一、ドラゴ親子だけが、闘いに挑む心理にスポットを当ててもらっている。
しかし、ドラゴがあのロッキーとの死闘で得たものはなく、逆に多くを失い恨みと憎しみで悲惨な30年を過ごしていたとは、なんとも悲しい。
命を懸けて拳を交えたもの同士にリスペクトがないとは。
ただ、勝者に安易に迎合しないところが、敗者の美学かもしれない。
ロッキーもまた、ドラゴに対してあまりにも冷たかった。
ラストのドラゴ親子のランニングシーンに一閃の光芒を見た気はした。
余談…
ジョージ・B・マイケル演じるアドニス・クリードがダウンしたときにキャンバスをグローブで叩くシーンがあった。
1997年、時のIBFヘビー級王者マイケル・モーラーが同WBA王者イベンダー・ホリフィーフルドと闘った王座統一戦を思い出して、物語に関係なくジーンとしてしまった。
何度もダウン(確か、4度)を喫したモーラーが8Rレフェリーストップで敗れるのだが、倒されても倒されても立ち上がって前に出る姿は感動的だった。
8R、最後のダウンで、モーラーはグローブでドンとキャンバスを叩き自らを鼓舞して立ち上がると、「来い」とばかりに両手でホリフィールドを挑発しながら更に前に出た。
生中継のWOWOW解説席で浜田剛氏が「立派ですなぁ」と何度も繰り返し感嘆していた。
遂に9R開始前に試合は止められてしまったが、10カウントを聞くことはなかった。
あんなに倒される自分に対して悔しさを顕にしたプロボクサーを見たことがない。
涙を禁じ得なかった数少ない試合の一つ。