「日常を切り取った時間のリアリティと会話の面白さにある、ある女性の自分探し」愛がなんだ Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
日常を切り取った時間のリアリティと会話の面白さにある、ある女性の自分探し
一目惚れした男性の都合のいい女になった恋愛依存症の山田テルコを主人公にした女性映画。ごく平凡な日常の時間をそのまま切り取ったリアリティの興味深さと、とりとめのない会話にある等身大の若者の言動の面白さがある。ただ映画の表現法ではなく小説の朗読劇のようで、演出の丁寧さは良いが工夫が足りない。観客の共感を最優先にする今日の映像表現なのだろうが、これを音声だけのラジオ放送で聴いても印象はあまり変わらないのではないだろうか。キャスティングでは、成田凌と江口のりこが既に俳優としての個性が付いてしまっている点で、このお話のリアリティの説得力を削いでいる。どちらもいい演技をしているのは違いないのだが、まだ色の付いていない俳優の方が作品のリアリティを出せたと思う。商業映画の難しいところではある。このふたりを生かすならば、見せ場を用意するのが脚色の力であろう。映画としての演技で云えば、テルコの友人葉子の使用人のような仲原を演じた若葉竜也が最もいい。主演の岸井ゆきのは、難役をよく演じた。何故なら、自分の事が解っていない山田テルコは、本当の自分と嘘の自分を常に演じている女性だからだ。自分を愛せない人は、他人も愛せない。自分を愛する以上に大切な人が現れたら、それが本当の愛だと思うのだが、どうだろう。”愛がなんだ”は、”私は誰なんだ”にいい替えてもいい。
良いシーンがあった。田中マモルから誘われて一夜を過ごすところの会話と足のアップ。でも、ここをふたりの表情と素足が微かに見えるライティングにして演出したら、もっといい場面になったと思う。
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