劇場公開日 2018年11月9日

「最期の30分は感涙モノの映像」ボヘミアン・ラプソディ うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5最期の30分は感涙モノの映像

2023年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

圧巻はライブエイドのステージ。どうやって撮ったのか分からないけど、本当にあの時代の、あのステージにカメラが踏み込んだとしか思えない臨場感が素晴らしい。それを見るだけでも十分もとは取ったと思う。私のような、ライブエイド直撃世代には、本当にその時代にタイムスリップしたかのような気になったし、軽く泣けたりもした。

ただ、映画として見ると、結成前からフレディは完成品で、曲を書く苦悩とか、才能同士の衝突なんかのドラマ部分が希薄な印象だ。挫折して成長する要素がひとつもない。それから、もう少し突っ込んで描いて欲しかったのが、ゲイであることを自覚して、周囲に広がる波紋だとか悲劇的な別れのエピソード。監督のブライアン・シンガー自身、ゲイだと認識されているので、その部分の葛藤には一過言あるだろうに、ゴシップ記者の心無い質問に胸を痛める様子も抑えめの描写だ、今ほどゲイに寛容な時代ではなかったのに。サラッと流れてしまう。それどころか、監督の素行に問題があったということで、途中で降板してしまった。

時期的に、追加撮影とか、編集、ポストプロダクションなどを誰かが引き継いだようだが、クレジットは、ブライアン・シンガーのまま。マイノリティの立場からの主張を代弁するはずが、小児性愛による自らの犯罪行為を告発されて表舞台から姿を消すことになろうとは、映画の出来にも少なからず影響を及ぼしたんじゃなかろうか。

バンドの経緯に詳しいファンの人には、いちいち説明せずとも「あー、あのことか」って分かるようなエピソードが、満載なのだろうが、どれも表層的な扱いで、肝心のドラマの軸が無い。もっと内容を絞り込んで恋人との出会いから悲しい別れまでとか、バンドメンバーの才能のぶつかり合いとか、フレディの音楽的成長とか、とにかく物語りの要素を強調して欲しかった。

製作された背景がまったく異なるが、『ジャージーボーイズ』は、人気のミュージカルを映画化しただけあって、映画の骨格もしっかりしていたし、歌の表現も素晴らしかった。さすが音楽に造詣が深いイーストウッドだと妙に納得したものだ。それに比べたらこの映画、確かに光る部分はいくらか見られるものの、サラッと終わってしまって、何も残らない。ちなみに歌は全てクイーンの演奏が使われたようで、実際の俳優たちのパフォーマンスではないように見えた。

うそつきカモメ