「昂ぶる」ボヘミアン・ラプソディ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
昂ぶる
まるで魂を鷲掴みにされ、ありったけの力で揺さぶられたような感覚だ。
「Queen」ってバントは知ってる。
どんな曲をリリースしたかもなんとなく。
F・マーキュリーって人の顔は朧げながら覚えてる。オールバックの髪型に立派な髭を蓄えて、レオタードのような衣装を着てる人。
俺の認識なんてたかだかそんなもの。
そんな俺なのに…なぜ涙が止まらない??
物語はバンドの結成当時から始まる。
出っ歯で目がギョロっとしてて、スター性など欠片もなく、巷に溢れる若者の1人。
そんな彼と彼らの足跡があまりに有名な楽曲とともに語られる。
このフレディを演じてる役者がまた凄い。
彼は空っぽなのかと思う。
いや、そんな訳はないのだが、彼から発信される何かというよりは、彼に注ぎ込む何かのような感覚で、つい彼に寄り添ってしまう。
おそらくはソレが止まらない涙の理由の1つではあるのだろう。
物語の進行もとても秀逸で。
BGMが流れてこない。
耳に鮮烈に響くメロディはQueenの楽曲だけなのだ。後は雨の音、紙をめくる音、足音、レコードの針が落ちる音、その他諸々。どれもこれもSEなのである。
音楽監督賞みたいなもんがあるなら、進呈したい。無ければ、この作品とこの人の為に新設してもらいたいっ!
曲が流れる前には、その曲の生い立ちとでも言おうか、薄っすらとでもフレディ達のプライベートが語られる。
それらから思うのは、誰かの為、何かの為に書いたのではなく、自らから溢れ出した言葉なのだと言う事。和訳を一生懸命追うも情景までは見えてこない歌詞もあり、だが、その歌詞に反応できる背景をもつ人達には強烈に突き刺さるのだろう。
自分を表現する。その一点においてなんの気負いもなく潔いのである。
ラストのフェスがどれほどのモノだったのか俺にはサッパリ分からないのだが、涙が溢れて止まらなかった。
この時期はQueen的には第一線ってわけでもなく、既に過去のバンドだったようだ。
でも、どうだ!
彼らが巻き起こす熱は、観客の1人1人にくまなく届き、彼が振り上げる拳は天をも裂きそうに力強い。
このフェスが始まる前のシーンでは、自らがエイズに感染してる事を告白するシーンだった。フェスでは、母への想いを叫び、観客にさよならを告げ、俺たちは勝者だと叫ぶ。
全部フレディ本人の事のように思え、この人は常に戦ってきたのだなと思う。
理解されない性癖や、それを隠す為に感じてしまう孤独や、それでも他を求めてしまう弱さとか。でも、彼は目を背けず、常に向き合ってきたのだなあと思う。
そう思わせてくれた編集と、その絵を残したカメラマンと、そのカットを指示した監督に心からの感謝と喝采を贈りたい。
エンドロールが終わっても涙が止まらず、立ち上がるのを躊躇ったのはいつ以来だろうか?
Queenの事はホントに何も知らないが、とても、とても良い映画だった。