「「アホか」と思うだけです。」小さな恋のうた 田中さんの映画レビュー(感想・評価)
「アホか」と思うだけです。
沖縄の基地問題をロミオとジュリエット的な解釈で描いた、
感動的なロック映画です。
ロミオとジュリエットは、
「過去の争い」にとらわれ続ける両家の
「愚かな大人たち」の争いを、
純粋な若い恋人たちの愛で乗り越える物語ですが、
この映画も沖縄における過去の争いにとらわれ続ける、
アメリカ軍基地と沖縄の市民との愚かな大人たちの対立を、
純粋な若者たちの愛と音楽の力で乗り越えていくストーリーになっています。
この青春と愛のテーマはシェイクスピア以来の、
普遍的なテーマでもあります。
しかし、ここにこの映画の致命的な欠陥があります。
沖縄の基地問題は、「過去の争い」ではありません。
今現在も続く問題です。
さらに、沖縄の基地に抗議する大人たちは、
「愚かな大人たち」ではありません。
今現在も続く問題を解決したいと考えている健全な方たちです。
「音楽の力は国境も超える」などと言うのも大きな間違いです。
沖縄の基地のフェンスは国境ではありません。
フェンスの両側とも、沖縄であり日本です。
基地のフェンスが国境化しているのは、
アメリカが不当な占領を続けているからです。
日本と同じ敗戦国であるイタリアとドイツの米軍基地は、
とっくの昔に両国の主権下に置かれています。
つまり、フェンスはただの金網にしかすぎません。
両国政府がアメリカに対して、抗議し交渉したからです。
そのさい、基地に抗議する国民の声が政府の背中を押しました。
べつにアメリカと喧嘩する必要もなく、
イタリアやドイツと同じように、日本政府が、
ただ普通にアメリカと交渉すれば解決する話です。
アメリカは、ヘタレの日本政府がビビッて黙っているから、
とりあえず放置しているだけです。
実は、感動のしようもない、簡単な話なのね。
だから、イタリア人やドイツ人がこの映画を観たら、
感動するはずがないです。
「アホか」と思うだけです。
他の世界中の人に見せても、似たような反応のはずです。
「なにビビってんの? 歌ってる場合じゃないだろ、
日本政府にアメリカと交渉させろよ」
「既成事実を疑って壊して造りなおすのが若者でしょ?」
「権力に従順で、政治的な話題を避けて、
既成の枠組みを追認して、その枠組みの中で、
ポーズだけ反抗的な日本のロックはダセーな」
・・・こんなところです。
製作者が、
「いや基地問題は象徴として使っただけです」
とか言うとしたら、象徴としても的外れだし失礼です。
だったら実在の地名と実在の問題を使わず、
架空の国の架空のファンタジーにするべきです。