「音楽に彩られた美しい人生」たった一度の歌 milnlnさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽に彩られた美しい人生
映画の始まりの、生命の力に溢れた高橋和也演じる紀彦の歌声は、その声に込められた思いが強く観るものに伝わる。
音楽は無形である。
形に残らない。
しかし心にはずっと生き続けている。
そこにそのメロディが実際耳に入り込み流れていなくても、思い出すたびに鮮明にそのメロディと歌声、息遣いさえを感じることができる。
若き情熱は歳を重ねても冷めないもの
だが、多くの既成概念のせいで、
人間は歳相応の生き方をしなければならないと思ってしまう。
それが邪魔をして自分の生きたい生き方ができない人もいる。
しかし、ふと訪れた心踊る瞬間、または逆に、目を背けたくなる現実、過去に一瞬にして戻れるような出来事をきっかけに、人間は自分らしさを取り戻していく。
この映画は夢と挫折と再生がテーマである。
人間の普遍のテーマを美しい田園風景や変化し続ける川の流れが優しく包み込んでいる。
夢を追い続ける者、
夢の途中で自問しながら前向きに生きる者、
なんら変わりのない日常の中で、
新しい形で夢を応援する者、
過去の呪縛に捕らわれ続ける者、
そんな男たちがそれぞれの道を切り開いてまた歩き始める物語だ。
注目すべきは、物語は4人の男の視点で描かれていること。
何度も戻る時間の中に、登場人物の深い心情が、演じる俳優陣の表情や声に明確にそして自然に現れている。
「こういうことだったのか」
という明朗な驚きやシンパシーが、
何度も伝わり心に響く。
さらに彼らの人生に共通するのが
音楽なのだ。
コードチェンジの弦の音、
囁くように歌い出す声、
人生の縮図を彷彿とさせる
魂に満ち溢れた声、
鳥のさえずりの如く軽快な、
またしっかりと地面を張り巡らす
根の如く深く重厚な混声、
川のせせらぎのような鍵盤の音、
全てはそれぞれの人生を
美しく彩る音楽なのだ。