「鼠はどこまでもつきまとう」1922 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
鼠はどこまでもつきまとう
勝手にスティーヴン・キング特集その24。
今回はホラー風味のサスペンスドラマ『1922』をご紹介。
なお、申し訳無いことに本作は、動画配信サービスNetflixのオリジナル映画。
ネット環境のない方はご覧いただけない作品である旨ご了承ください。
あらすじ。1922年、ネブラスカ。
主人公ウィルは、妻アルレット、息子ヘンリーと共に農場を営んでいたが、
ある日アルレットが「土地と農場を売って都会へ引っ越す」と主張し始める。
夫の反対をよそに、土地の売却と息子を連れての引越しを準備し続けるアルレット。
自分の土地と農場を誇りにしていたウィルは妻の殺害を企て、ついにそれを実行。
死体は井戸に捨てて埋め、妻が家出したように見せ掛ける偽装工作も周到に用意。
彼女の家出を疑うものは現れず、すべては思い通りに進んだはずだった。
だがその日から……井戸の中で妻の屍に集(たか)っていた鼠たちが
農場のあちこちに現れては害を及ぼすようになり始める。
そしてさらには、殺し埋めたはずのアルレットの気配も――
原作は文春文庫から出版されている中篇『1922』。
南部農業地域版『黒猫』とでも呼べそうな、陰鬱で不気味な作品。
しかし、あらすじだけ読むと亡霊の復讐譚かと思われるかもしれないが、
そういった超自然的な要素は少ない。“幽霊ホラー”と呼ぶより、妻殺しの
罪を犯した男がずるずると転落してゆく様を描くサスペンスドラマという感触か。
原作ではアルレットと鼠の超自然的な繋がりが描写されていたが、そこも映画では控えめな印象。
だが物語の流れも雰囲気も、原作との大きな差異はないと思うし、キング原作映画の中でも
かなり良い出来では、というのが個人的な意見だ。1900年代初頭の雰囲気も良い感じ。
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初っ端から、主演のトーマス・ジェーンにビビった。
キング原作の『ドリーム・キャッチャー』『ミスト』でも主役を務めている彼だが、
最初は彼だと全く気付かなかった。どぎつい南部訛りや、のっそりとした外観と所作がスゴい。
どちらかといえば武骨な印象の人ではあるけど、まさかここまで南部の農夫に化けてみせるとは。
物語は彼の独白で進行する。暗いバイオリンの音色と共に、淡々と語られる事件の顛末。
……まあ、あまりに淡々とし過ぎていて後半眠くなってくるのが本作の難点なのだが……
いたずらにショック描写に頼らない語り口は好みだし、思わず顔が引きつるほどに無残で
恐ろしい描写も少なくない。井戸の中のアルレットと鼠たちなんて、夢に出そうなおぞましさ。
登場する怪異も、モンスター映画のようにウィルをずたずたに引き裂いたりはしない。
その代わりに恐怖と罪悪感を植え付け、生き続けることの苦痛を味あわせる。
ひとおもいに殺すよりも、よほど怨恨の深さを感じるやり方だと思う。
(ちょっと日本の幽霊の怖さに近い感覚さね)
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土地と自身の価値観に固執するあまり、金も、友人も、
それまでの生活も、愛する息子の心までも失っていくウィル。
自業自得と言ってしまえばそれまでだが……なんとも憐れにも思える。
その愛する息子ヘンリーと恋人シャノンの迎える結末もやるせない。
ヘンリーの終盤のセリフは、ウィルが息子にそう“言わせてしまった”
という点で、ウィルの深い深い後悔を表している台詞なのだろう。
「僕はもう神様に祈れない。祈ったら僕は神様に打ち殺される」
ひとつの罪をきっかけに、周囲の全てが瓦解してゆく。
鼠たちは――腐臭を放つ過去のあやまちは――どこまでも後ろをついてきて、
決してこちらを放してくれない。結局、誰も自分の犯した罪からは逃れられない。
...
前述のとおり語り口が淡々とし過ぎているとは思うし、ウィルがどれだけ
土地と息子を愛していたかが少し伝わり辛いのが不満点だが、それでも面白かった。
見て損ナシの3.5判定で。
<了> ※2018.10鑑賞
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余談:
Netflixに加入した一番の理由は、キング原作である本作と『ジェラルドのゲーム』が観たかったから
(あと『空飛ぶモンティ・パイソン』と『ポプテピピック』も)。
『ジェラルドのゲーム』も悪くない出来だったが、残念ながら
現時点でここのサイトのデータベースに無いのでレビュー不可。
ちなみに『ジェラルドのゲーム』の監督マイク・フラナガンは、
『シャイニング』の続編『ドクター・スリープ』に抜擢されている。
映画版と原作の『シャイニング』は正直まったく別物なのだが、
前作とつながりのある部分を映画版『シャイニング』に寄せるのか、
それとも原作に寄せるのか、気になりますねえ。